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2023.10.11

レビュー

最強の兄×異能の妹。すべてを失った男が謎の巨大組織に挑むバトルサスペンス!

2話目がスゴイって……、マジすごかった

ヒーローに憧れて、その生き様を目標とする。マンガやアニメ、特撮ドラマに囲まれて育った人なら、誰しも心当たりがあるだろう。マンガ『BRAVE BELL』の主人公・真田蒼司もまた、そうしたありふれた高校生の一人だ。しかし、彼の出自はヤクザの嶽城組組長の息子。家族や構成員たちは彼に優しいが、周囲の目、社会の目は厳しく、アニメのヒーローのように弱きを助けて強きをくじく、義のために命を惜しまない生き方「任侠」を通すことは難しい。それでも蒼司はカタギの世界で「任侠」を通して生きるため、冷たい視線に耐えながら勉強に励んでいた。

ある日、蒼司が学校で留守にしている間に、嶽城組が謎の組織「リーガル・ラフ」に強襲される。そして組長の父をはじめ、構成員たちは皆殺しにされてしまう。



リーガル・ラフに復讐を果たし、自分の人生も仕舞いにすることを決意する蒼司。そして彼は、裏家業の情報屋から貸金庫のカードを受け取る。それは、父から「もしものことがあったら渡してほしい」と預かったものだという。一体、父からなにを託されたのか?

この貸金庫、現金や貴金属、武器弾薬から人間まで預かり、絶対保全を約束するという設定なのだが、韓国映画『オールド・ボーイ』の監禁部屋や、キアヌ・リーブス主演の人気シリーズ「ジョン・ウィック」のコンチネンタルホテルを思わせてニヤリとさせる。

そして、貸金庫に預けられていたのは……







ここまでの壮絶な展開に、突然、少女が現れて「お兄ちゃん」って……。
この意表を突く展開に呆気(あっけ)に取られる間もなく、貸金庫がリーガル・ラフに強襲される。厚さ15センチの扉を打ち破る、ほぼ異能確定の女性をはじめ、数にモノを言わせた戦闘員らに蒼司は追い詰められる。しかし……











セリフにはないが、蒼司はこう思ったはず(そして読者の声)。
「親父……、聞いてねぇよ!」
本書の帯に、週マガアンケートで「2話目がすごい」と大反響!って惹句(じゃっく)が入っているが、こんな展開、誰も考えつかないよ!

強大すぎる力と、抱え込んだ矛盾

謎の組織リーガル・ラフに単身立ち向かうリベンジストーリーかと思いきや、そこに放り込まれた異能の妹。ここから本作は、「強い」ストレートな物語から「危うい」スリリングな物語へと舵を切る。
しかし、これは確信的な選択なのだ。原作のメーブは、あのヒット作『ACMA GAME』の原作者。召喚された悪魔の審判のもと、複雑なルールのゲームの勝者が、敗者のすべてを総取りする設定。張りめぐらされたロジック、ヒリヒリするような神経戦の展開を得意とするメーブの帰還作こそが、この『BRAVE BELL』なのだ。一筋縄ではいかない。

的外れかもしれないが、ここで勝手な考察をしてみる。


妹のあくりが持つ力は、「神力(イニシェーノ)」と呼ばれている。彼女は誘拐されて、ある組織から実験を受けてこの力を得た。たぶんこの言葉(造語?)の語源は、通過儀礼を意味するイニシエーションと同じ、ラテン語のinitiumを語源とするものではないか? initiumは、「始まり、開始、最初」を意味すると同時に「秘儀」を意味する。それが神力という言葉に結びついているのだろう。さらに、あくりはこう語る。



ゲームファンならピンとくるかもしれないが、ソーサーは受け皿を意味するsaucerではなく、魔術師を意味するsorcerer(女性形はsorceress)からきているのではないか? 近い意味のwizardと異なるのは、sorcererは悪霊の力を使うところである。こう聞くと、ゾクゾクしてこないだろうか?

この途方もない力をもってすれば、リーガル・ラフに復讐することができる。しかし、その力は強大すぎて蒼司にとっては両刃の剣。あくりは、いつでも蒼司に強制執行を行える立場にいるからだ。









人生をかけて復讐することを決意しながら、庇護しなければいけない妹を得て、その妹の力があれば復讐も可能だが、その力は容易にコントロールできない。そして、この大きな矛盾を抱えたまま、蒼司はリーガル・ラフと戦わなくてはならない。読者は3話目にして、原作者メーブの仕掛けた複雑なロジックのフィールドへ引きずり込まれてしまう。

あくりの出現で新たな家族を得た蒼司。同時に彼は、血のつながりはないが家族同様に育ち、慕ってきた兄がリーガル・ラフの内通者であることを知る……。
目まぐるしく交錯する家族関係。さらに積み増しされそうな異能に関するロジック。そしてリーガル・ラフとのバトル……。これから予想されるハラハラの展開に、目が離せない。

レビュアー

嶋津善之 イメージ
嶋津善之

関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」

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