君を一番にしてあげたい
最近読んだ中で、トップクラスに続きが気になる漫画。それが『私をセンターにすると誓いますか?』だ。この問いに「任せろ俺に……!」以外の答えを持たない「熱烈なファン」と「卒業寸前の不人気アイドル」。絶対に結び付かないはずの二人がひとつ屋根の下でタッグを組み、センターの座を目指す。推しにテッペン取らせてあげたい。やれることは全部してあげたい。そんな熱い気持ちのファンと「推し」が紡ぐ、アイドル下剋上物語だ。
幸一の“推し”は国民的アイドルグループ「メルティーストロベリー」人気最下位の夏野瑞希。
作者の若月ジュン先生が「アイドル大好き」というだけあって、バチっと上がったまつげに切れ長の瞳がキレイな瑞希は、今っぽいアイドルらしさがあって本当に可愛い。こんなに可愛いのに全く人気が出ない理由は、アイドルファンの間でも有名な瑞希の超・塩対応にあった。握手会のレーンも、走れてしまうくらいスカスカだ。
何度となく自分のレーンに並んでくれる幸一に対しても瑞希は笑顔を見せず、スンっとしている。まあ、そんなところもいいんだけどね!
では「メルスト」でトップの人気を誇るのは……? この圧倒的な光・淡雪だ。
甘くかわいいルックスに、誰もが魅了される笑顔。ファンの「結婚して!」へのリアクションも完璧な彼女は、メルスト結成以来一度もその座を譲らない「不動のセンター」。
それでも、幸一の「心の中のセンター」は瑞希だけ。
誕生日も、握手会も……自分が推し続ける限り、ずっと瑞希に会える。そう思っていたのに……。
瑞希は近々メルストを卒業してしまうらしい。卒業後もソロで活躍する道があるのは、人気メンバーだけ。不人気メンバーにとっての「卒業」は、限りなく「引退」に近い。
推しは誰かの引き立て役になるためにいるわけじゃない。全力で瑞希を推してきた幸一には、こんな卒業はとても受け入れられない。しかし、絶望し、疲れ果てた幸一が自宅で目を覚ますと、そこにいたのは……。
推しがどうして自分の部屋に? 二人は、ある事情から同じ家で生活することになるのだ。
誰かを「推す」ってこういうこと
推しが自分の部屋にいて、自分の手を握ってる……! 自分のことも認知してくれているっぽい! さらにこれからはひとつ屋根の下で暮らすって? なにそれ夢? それともラノベ?な展開だけど、ただ「推しのそばにいられればOK」で終わらないのがこのマンガだ。
本当の瑞希は「塩対応」どころか、アイドル活動に一生懸命で不器用な女の子だった。アイドルをやめたくない。卒業なんかしたくない。なのに、アイドルを続けられない原因が「人気のなさ」なら、続ける方法はただひとつ。人気を出せばいい!
今はメルスト内で人気最下位の瑞希だけど、不人気=「実力ナシ、魅力ナシ」では決してない。近くで見れば改めてわかるビジュアルの良さや、素の瞬間の豊かな表情、一生懸命さ……。瑞希の数々の魅力が、一番のファンである幸一の目から語られる。自分の頑張りを見てくれるファンの存在は、推しの心にも響くのだ。瑞希は一度は受け入れた卒業を撤回できないか、考え始める。
しかし、正式に発表してはいないものの、瑞希の卒業はメルストファンにとっても運営にとってもほぼ決定事項。撤回はきっと難しい。不安な瑞希の目に映るのは、いつものように自分を“推す”幸一だった。
このシーンが、私はとても好きだ。誰よりも瑞希を推してきた幸一の思いが瑞希に届いて、その目に勇気が宿る。こんな気持ちのキャッチボールがたまらない。誰かを推したことのある人なら、「推す」ってこういうことだよね!と心が震えるはずだ。「推しとファンがひとつ屋根の下にいる」設定が最高に生きている名シーンだと思う。
不器用な推しの魅力を引き出せ
運営は、ある条件をクリアすれば瑞希の卒業を取り消してくれるという。そのためには、短い時間で瑞希の魅力を最大に引き出さなくてはならない。でも、幸一の知る彼女のダンスは「ロボットの盆踊り」と呼ばれるほどに個性的。(とはいえ、これはこれで味のある可愛さなのだ。ずっきーのアクスタが欲しくなる!)
人前での笑顔も苦手、トークも苦手、ダンスもイマイチとなると、どうすればいい? 途方に暮れる幸一が目にしたものは……。
満面の笑みで完璧に歌い踊る瑞希の姿! この輝きが多くの人の目に触れさえすれば、きっとセンターも夢じゃない。
ラストチャンスに賭ける幸一の行動が、これまた「ファンの鑑」と呼びたくなるようなド直球の愛にあふれている。推しを“端っこ”から“センター”へ! 「好き」を極める物語の続き、待ってます!
レビュアー
ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。
twitter:@752019