講談社漫画賞のシンボルとして山形博導氏制作のブロンズ像「MEMORY」が受賞者に贈呈されます。
選評
海野つなみ
【少女部門】生々しい話を包み込む透明感『あの子の子ども』、美しくて見飽きない『うるわしの宵の月』、選考委員大爆笑『多聞くん今どっち!?』、少しずつ広がる世界が楽しみな『ゆびさきと恋々』。
【総合部門】みんな大好きセンスの塊『女の園の星』、ありがちな出来事を掘り下げる手腕が凄い『スキップとローファー』、大迫力読む海外ドラマ『ダーウィン事変』、鬱でグロいのに止まらない面白さ『満州アヘンスクワッド』、スケートファンみんな読んでほしい『メダリスト』、大人も子供も読んで救われる『リエゾン ‐こどものこころ診療所‐』。 どの作品も面白かった!
小川悦司
【少女部門】受賞作『あの子の子ども』の透明感に唸りながらも、『ゆびさきと恋々』の揺るぎない格調高さ、『うるわしの宵の月』の迷カップルぶり、『多聞くん今どっち!?』のオタクボキャブラリーもそれぞれ素晴らしく、僅差に感じた部門でした。
【総合部門】非日常的情報価値の高い秀作が多い中、日常描写力の作家性が突出した『スキップとローファー』『女の園の星』が最終候補の議題に。後者は人生で一番爆笑した傑作です。
受賞皆様おめでとうございます。
久米田康治
【少年部門】一番面白かったのは『大吾』で一番印象深かったのは『ガチアクタ』でした。『大吾』は前作を読んでなくても一つの作品として成立してる所が凄い。地球がどうなっちゃうのか、先が凄く楽しみな作品です。普通、職業漫画はHOW TO漫画になりがちで、子供が読んで「僕も消防士になりたい!」となるのだが、この作品は逆で「僕には無理です!」ってなるくらい「熱さ」や「痛さ」が伝わってくる。それでいて読後感が気持ちいい「読むロウリュ」みたいな存在で、漫画界において貴重な存在。「面白いのは間違いない。そのうち獲るでしょ」みたいな意見が多い中、来年の事なんて分からないし、作者が「あれに負けたのか」とヘソ曲げてノミネート断るケースだってあるし、その時、一番面白い作品に与えるべきだと思うのですが。『ガチアクタ』はどうやって描いてるんだろうというくらい絵が上手い。最近のファンタジーが元の世界に戻るのを目的としない作品が多い中、珍しく主人公に「戻りたい」という目的意識がハッキリしてるのも好印象。捨てたゴミが念を持ち武器に変わるというアイディアも面白い。最近「断捨離」と称し大量のゴミを捨てたのだが、あれが武器に変わるのを想像するだけでも楽しいし、サステナブル。僕が捨てた腹筋台はどんな武器に変わるのでしょうか。超絶に上手い絵に関しては、もう何か凄いAIとか使ってズルしてて欲しいです。そう思わなきゃ凡人は生きていけないです。作画の力は勿論、作り込まれた世界観やデザインとか「チーム」でやってる感満載で、この才能をマッチングした編集の手腕も賞賛に値すると思います。いや、もしかしたら現場が優秀で編集は何もやってないかもしれない。
【少女部門】『あの子の子ども』はもう教科書に載せるべき作品。重い題材なのに読みやすく、一気に読んじゃいました。取材もしっかりされていてリアリティ溢れる作品ですが、唯一気になったのが彼氏が出来過ぎなところ。普通の高校生の男の子なら、もっと狼狽(うろた)えるのではないか? いや狼狽えて欲しいという凡人の願望なのかもしれません。「大丈夫だから」と貯金40万円の通帳を自信満々に見せる所は可愛かったです。足りないんじゃないのかなぁ? その辺はむしろ高校生のリアルなのかも。『多聞くん』はアリがちでもう100万回観た設定でも、キャラが『ヤベエ奴』というだけでここまで面白くなるのかと思い知らされた作品。出オチ感満載の設定ですが、これだけキャラがヤベエ奴なら100巻でも続けられそう。ほんと面白かった。
【総合部門】ジャンルも多岐にわたりノミネート数も一番多い激戦区。そもそも比べる物差しがない。「好き」か「大好き」でしか比べる事が出来ません。『スキップ~』が獲るのは当然として、大大大好きなのは『女の園の星』。昨今、取材もキチンとして設定モリモリの手間と時間をかけたカロリー高い作品が評価されがちな中、言っちゃあ何だが「作者のセンス」だけで描いてる。いやもうこれ他の誰にも描けないし、嫉妬しかない。おそらくこの作品は「漫画」が完成形。アニメ、ドラマ、2.5次元舞台等どんなメディア化しても絶対越えられないし陳腐化する。そう言った意味でもTHE「漫画賞」に相応しい作品だと思う。まだ巻数浅いからなんて言われるけど、獲って欲しかったなぁ。『ダーウィン』は何処からこんな作者が出てくるのか不思議でならない。漫画なんて好きな作品マネするところから入るものだが、この作者は系譜というか誰のフォロワーなのかの影も見えない。ある種、突然変異。作品もネトフリのアメドラを一気観したような感覚で、良い意味で「日本」がない。セリフの言い回しもアメリカンポリスのジョークもネイティブにしか思えず、ただ吹き出しの中の「翻訳」を読んでるような不思議な感覚。もちろん翻訳は戸田奈津子先生ではない感じです。我々選考委員は「作者は帰国子女?」みたいな薄っぺらい推測しか出来ませんでした。まだまだ漫画界は広く異才が溢れている。 そして僕は埋没する。
はやみねかおる
【少年部門】『シャングリラ・フロンティア』はゲームの設定がとても細かくリアルですが、“痛み”を感じなかったので低めの評価でした。しかし他の先生方の評を聞き、受賞を納得しました。個人的には、落語を武器に“戦う”という感じが斬新な『あかね噺』や、前作を知らなくても面白いし、レスキューの大変さも現場の怖さも苦しさも感じられる『め組の大吾』を推しました。
【少女部門】重いテーマを丁寧に描き、各登場人物がどのような“選択”をするのかが気になる『あの子の子ども』か、夢小説のような有り得ない設定なのにグイグイ読ませる『多聞くん今どっち!?』で、迷いました。
【総合部門】王道の少女マンガとギャグが絶妙に融合している『スキップとローファー』の受賞は、納得です。普通におもしろい『女の園の星』も、捨てがたかったです。個人的には、『リエゾン』を多くの人に読んで欲しいです。
東村アキコ
少年部門、どの作品も作画のレベルが高く驚きました。『あかね噺』、よかったです。『ガチアクタ』のビジュアルセンスもすごい。しかし今回は現代の子供達の新しいヒーロー像として『シャングリラ・フロンティア』に軍配。この作品も作画が素晴らしく、巻数を重ねてもクオリティが上がっていくばかりということで私も推させていただきました。
少女部門、対極的な作品の一騎打ちでした。私は『多聞くん』で笑い転げ「今までこんなに面白い漫画は読んだことがない!」と選考会で熱く語らせていただきましたが、惜しくも『あの子の子ども』に届かず。この作品も少女漫画表現の醍醐味ここにありという感じのコマ運びや絵のタッチで、選考委員の評価が高かったです。『ゆびさきと恋々』、去年に引き続きのノミネートでしたが、惜しくも受賞ならず、しかし未来に残る名作だと思います。
総合部門は選考委員皆が本当に素直に楽しんだ、『スキップとローファー』に決まりました。他の作品も全部、迫力もストーリーも、ものすごかったのですが、映像化したとしても漫画を越えられない表現、世界観、そういうものが『スキップとローファー』にはあるという三田先生のご意見に私も深く賛同しました。
三田紀房
少年部門は幸村誠委員の『シャングリラ・フロンティア』に対する圧倒的支持に全員が賛同することで受賞が決定しました。
個人的には『め組の大吾』の熱量に一票を入れました。
少女部門は『あの子の子ども』が抜群に面白く、感動し推薦しました。シナリオ、情報処理、演出、心理描写が完璧で見事な作品です。今年こそ『ゆびさきと恋々』との思いは叶わず、実に残念です。
総合部門は『スキップとローファー』が念願の受賞となりました。繰り返し何度も読みたくなり、シンプルでハートフルな世界観は現代の世相にフィットして実に心地よい作品です。『女の園の星』は好きな作品で今後に期待します。『ダーウィン事変』は読む手が止まらなかった。
今年もレベルの高さと才能の豊かさに驚かされた選考でした。
幸村 誠
少年部門は、『あかね噺』『め組の大吾』に選考委員の評価が集まりましたが、個人的には『シャングリラ・フロンティア』が今の少年達の興味のド真ん中を射抜いていると感じ、強く推しました。
少女部門、『多聞くん今どっち!?』の明るい魅力と『あの子の子ども』のシリアスな魅力を比較して選ぶのは本当に至難でした。やはり最後には私の個人的な好みで『あの子の子ども』を推しました。
総合部門は最終的には『女の園の星』『スキップとローファー』のどちらかを選ぶことになりました。両作品とも高い漫画制作センスと、読んで気持ちの暖かくなるような魅力を持った漫画だと感じました。
今年の総合部門は候補全作品が文句なく面白いと思いました。できることなら全作品受賞していただきたかったです。
受賞のことば
少年部門
シャングリラ・フロンティア ~クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす~
原作/硬梨菜 漫画/不二涼介 【週刊少年マガジン/所載】
Web小説として書いていたものが、漫画化し、アニメ化し、ゲーム化する。
常に「本当に?」という驚きだらけの夢の中に生きているような心地でしたが、まさか講談社漫画賞を受賞するとは思ってもいませんでした。
「漫画」賞ということもあり、なによりも自分の作品を見出してくれた編集井上氏と、作画を引き受けてくださった不二先生に最大の感謝を。
そしてノミネートされたこの作品を選んでくださった選考委員の方々、なによりも連載開始から、ひいてはWeb小説の頃から追いかけてくださる読者の皆様にも。
本当に、本当にありがとうございます。漫画賞に恥じぬよう努力していきたいと思います。
最後に、今後とも『シャングリラ・フロンティア』をどうぞよろしくお願いします。
選考委員の先生方に読んで頂けるだけでも光栄でしたが、まさか受賞までしてしまうとは思っていなかったので大変驚いております。
改めて原作小説のパワーの凄さを感じました。
文字を多用しにくいバトル漫画で硬梨菜さんの練り込まれた地の文から受ける印象を落とさずに伝えるには、どう演出すれば良いのか……ネームを描くたびに悩んでいました。
ですが講談社漫画賞を頂いたことで、原作の魅力を伝えることが出来たのかなと胸を撫で下ろしています。
作品制作に協力してくださった方々や読者の皆様へ感謝すると共に、頂いた賞に恥じぬよう邁進していきたいと思います。
この度は本当にありがとうございました。
少女部門
あの子の子ども
著:蒼井まもる 【別冊フレンド/所載】
講談社漫画賞という栄誉ある賞に選んでいただいたこと、大変光栄に思います。
この場をお借りして、日頃お世話になっている皆様に感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。
担当編集であるお二人をはじめ別冊フレンド編集部の皆様、この作品が世に出るまで携わってくださっている関係者の皆様、取材にご協力頂いた皆様。
作家仲間、先輩方、友人、娘、愛犬、推し……そして何より読者の皆様。
いつもありがとうございます。
『あの子の子ども』は、今どこかでひとり悩んでいる女の子に向けて描いています。
制作にあたって、このお話のテーマとなっている「若年妊娠」に関わる方たちにお話を伺いました。
皆さんの願いはただひとつで、それを読者の皆様に繫ぐことがこの物語の役割だと思っています。
日頃支えてくださる皆様に、そして受賞作として恥じることのないよう、最後までこのテーマに誠実に向き合っていこうと今一度気持ちを引き締めることができました。
この度は本当にありがとうございました。
総合部門
スキップとローファー
著:高松美咲 【アフタヌーン/所載】
連載開始時、フックが弱い作品だという自覚があり、果たしてどこまで続けられるのかとても怖かったことを覚えています。
途中、「ありふれた生活」はまったく当たり前のことではないと感じる機会がありました。一度は受け流したものの小骨のように引っかかった感情は誰しも持っているはずです。そうした事柄を小さく掬(すく)った地味な漫画が、誰かにとっての「あってよかった漫画」になればいいなという気持ちで今は描いています。
あまりセンセーショナルでもドラマチックでもない拙著がこのような賞をいただけたことは、そうした思いがひとつ形として認めていただけたようで本当に嬉しかったです。ありがとうございます。
アニメも放送され、もはやたくさんの方々の想いが乗った作品になったと感じています。いつも制作を支えてくださっている関係者のみなさま・読者のみなさまにはこの場を借りて改めて感謝を伝えたいです!
これから1話1話大切に、完結まで走り切る予定です。よろしくお願いします。
第47回講談社漫画賞候補作一覧(作品名五十音順)
少年部門
『あかね噺』原作:末永裕樹 作画:馬上鷹将/『薫る花は凛と咲く』三香見サカ/『ガチアクタ』裏那圭 graffiti design:晏童秀吉/『シャングリラ・フロンティア ~クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす~』原作:硬梨菜 漫画:不二涼介/『め組の大吾 救国のオレンジ』曽田正人 冨山玖呂
少女部門
『あの子の子ども』蒼井まもる/『うるわしの宵の月』やまもり三香/『多聞くん今どっち!?』師走ゆき/『ゆびさきと恋々』森下suu
一般部門
『女の園の星』和山やま/『スキップとローファー』高松美咲/『ダーウィン事変』うめざわしゅん/『満州アヘンスクワッド』原作:門馬司 漫画:鹿子/『メダリスト』つるまいかだ/『リエゾン ‐こどものこころ診療所‐』原作・漫画:ヨンチャン 原作:竹村優作
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