日々の生活のなかで心の潤いを与えてくれる、それが「推し」。そんな、生きる糧ともいえる存在が、ある日突然目の前から消えてしまったら――。
『推しが死んだのでタイムリープして生存ルート確保します!』は、生き甲斐である「推し」のスター・白金ハルコを失った主人公の黒田ユキが、中学生時代にタイムリープ。この世界線でハルコを死なせてなるものかと、あらゆる手段を使ってバッドエンドを回避すべく、奮闘していく物語です。
一般的な“自分と「推し」の関係性”と異なるのは、ユキとハルコが同級生で親友同士だということ。
「推し」はテレビで活躍する大人気女優。そして自分の親友でもある。そんな状況に幸せを感じるユキでしたが、ふとある思いが頭をよぎります。
「推し」への想いが強すぎて、自ら距離を置こうとするユキ。偶然見つけた、ハルコが知り合いにもらったというタバコだって取り除くべき不純物。しかし、タバコの箱から出てきたとあるモノを目にし、ユキは愕然(がくぜん)とします。
ハルコが誰かとホテルに……? この相手は絶対に排除しなければならない。決意を固くするユキでしたが、それから少しして、彼女の目に信じられないニュースが飛び込んできました。
まさかの出来事に茫然自失となるユキは、日常生活もままならないなかで、ハルコの死の理由をスマホで探し続けます。すると、ネット掲示板に「犯人特定しました」の文字と共に、1枚の写真がアップされているのを発見。
そこに写っていた人物が手にしていたのは、以前ハルコが持っていたものと同じ銘柄のタバコ。この男がハルコとホテルに……? 動揺したユキは、その人物・プロデューサーの金田弘明のもとへと向かいます。
金田を見つけたユキは、自分はハルコの親友だと告げますが、金田は「本当に?」という言葉に続けて、こう言い放ちました。
実際のその目でタバコの銘柄が同じであることを確認したユキは逆上し、持っていたハサミで金田を切りつけようとしますが、予想外の邪魔がはいります。
そして、続く金田の言葉がさらなる衝撃をもたらすのです。
こんな大事なことを知らなかった、知らせてくれなかった。目からこぼれる涙に戸惑い、自問自答を繰り返すユキは、やがて一つの結論へとたどり着きました。
取り返しがつかない後悔に襲われ、虚しくうつむくユキでしたが、ふと顔を上げると、なぜかそこは学校の教室。窓ガラスには幼い顔をした自分の姿も。しかし何よりの驚きは……!
なんと、ハルコが生きて現れたのです。しかも中学生の姿で。ハルコは死んだはず。夢、それともタイムリープ? 混乱するユキでしたが、生きているハルコを目の前にして、覚悟を決めます。
この時点でハルコが金田と知り合っていた事実を知り、やはり自殺の原因は金田ではないかと疑いを強めるユキ。離れたのは間違いだったと後悔している彼女が今回選んだ道は……。
こうして、ハルコから不純物を排除して、自殺というバッドエンドを回避し、生存ルートを確保するユキのミッションが始まるのです。
まずやるべきは、ハルコが所属している劇団に入ること。演劇経験もなく、ビジュアルも普通。だけど、劇団に入る(=ハルコのそばにいる)ためならなんでもする。入団オーディションの審査員だった金田に「前髪くらい切ってこい」と難癖をつけられれば躊躇なく切り落とす、狂気のような執念を見せたユキ。
また、「ハルコと一緒にいたい」というユキに金田は、天才ハルコを真似しようなんておこがましいと一刀両断。普通は落ち込むものですが、ハルコ信者なユキは100%同意。
ハルコに心酔するユキの入団動機を気に入った金田は、合格を言い渡します。
とはいえ、お芝居なんて初心者。素人演技にまわりの劇団員からも疎まれてしまうユキ。台本暗記テストに失敗したら即退団という条件を突き付けられてしまいますが、タイムリープ前の推し活が役に立ちます。
さらに、怪我人の代役として初めて本番の舞台に立った際には、緊張でグダグダになるかと思いきや……
確かに、オタクにとって夢の特等席は、もっとも至近距離で「推し」の演技が味わえる舞台上かもしれません。
金田をはじめとする不純物に目を光らせ、ハルコを一番近くで守りながら、存在感を増していく新人女優・黒田ユキ。そして「私の知っているユキ」との違いに気づき始めるハルコ。ふたりの友情や女優同士の関係性はいったいどう変化していくのか。そもそも、ハルコの自殺の原因とは?
「女優」「芸能界」をモチーフに、青春×ミステリーが融合した本作。大好きなハルコの生存ルートを確保するためにもがくユキの、人生を賭けた「推し活」の行方から目が離せません!
レビュアー
中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。
twitter:@hoshino2009