「ジドリ=地取り」とは、現場周辺で聞き込みを行うこと。
そのジドリで事件に迫る『ジドリの女王』は、たくさんの謎があちらこちらに散りばめられ、1回読んだだけでは思考が追いつかず、2回読むとさらに謎が謎を呼ぶ!!という面白さがあります。
氏家真知子(うじいえまちこ)は、芸能人のスキャンダルも平気でスッパ抜く、写真週刊誌の芸能専門編集者。
自分の記事で世間が大騒ぎし、Webの閲覧数が増えることに快感を覚えていました。
ところがある日、後輩記者の小谷田(こやた)が大スクープをものにします。
それは、行方不明の女子中学生が山中で遺体となって発見された殺人事件。
しかも、その近くには同じ中学に通う男子生徒の遺体と凶器があり、「中学生心中事件!?」として、世間を騒がすことに。
早速、特集記事を作るため、現場で聞き込みを行うジドリ要員を投入するという話に、真っ先に手を挙げる真知子。
ところが、先輩記者たちからの風当たりは強く……、
真知子がこうまでして行くことにこだわったのは、事件が起きたこの地に忘れられない過去があるから。1巻ではチラ見せだけなので、かえってその謎が知りたくなります。
こうして現地に向かった真知子ですが、スクープ記事を書いた小谷田はというと、編集長によって勝手に書き換えられた「中学生心中事件!?」というショッキングなタイトルに心を痛めていました。
裏付けが薄い記事のことを「飛ばし」と呼ぶのですが、確かに私たちもタイトルに釣られて記事を読むこともあるし、間違った話が広がる様子もよく見かけるので、今の時代を反映していて考えさせられます。
だからこそ、真実を突き止めたいと思った真知子と小谷田が町で“ジドリ”を続けるうち、次々と謎が浮かび上がります。
そもそもこの土地は、大手自動車工場ができてから急激に発展し、「町」に住む人と「山」に住む人との間に差があるというのです。
この事件は、単なる二人の生徒の問題ではなく、鎌倉時代の落武者や、「神様の末裔(まつえい」と伝えられる4つの名家も関係しているようで、えっ、どういうこと!?と謎が増えるばかり!!
こうした閉ざされた田舎ならではの不穏な空気は絵からも滲み出ているのですが、それとは対照的に真知子のぶっ飛びキャラも見ものです。
ジドリ用にキャラを使い分けるときには髪型も変えるなんて、もうわかりやすすぎて笑えるし、
ライバル誌の記者に「飛ばし記事」の皮肉を言われたときは、なりふり構わず悔しがります。
だけど、「事件を解決したいと思いますか?」という、他社のベテラン記者の質問に対する真知子は、驚くほどクール。
こんな真知子になったのは、元記者だった父親や、親しかった先輩記者とも関連がありそうで、色々と想像してみたのですが、正直さっぱりわかりません。
いくら考えても、点と点が線として結びつかない(笑)。
それぐらい、たくさんの謎が1巻には投げ込まれているのですが、どうやらまだまだ謎が出てきそうなのです。この先、それらの謎がどう集結して事件と結びついてゆくのか、とても楽しみな作品だと思います。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp