『源氏物語』が日本文学のルーツなら、『あさきゆめみし』は少女漫画のレガシーと言えるのではないでしょうか。
1979年から1993年までの約14年間続いた超大作『あさきゆめみし』。
『はいからさんが通る』『ヨコハマ物語』など、たくさんの名作を生み出した大和和紀(やまと わき)先生画業55周年を記念して発売された【新装版】は、連載開始から42年の月日を経ても全く色褪せません!!
桐壺帝(きりつぼてい)の第二皇子として生まれた光源氏(ひかるげんじ)は、幼い頃に亡くした母と面影が似ている帝の新しい妃・藤壺の宮(ふじつぼのみや)を慕っていました。
2人が出会ったとき、藤壺の宮は14歳、源氏の君はまだ9歳でした。
12歳で元服した源氏の君は、藤壺の宮とも気安く会えなくなり、その思いはほかの女性たちに向かいます。
『源氏物語』といえば、光源氏の恋の相手が実に多様なところが面白さでもありますが、その中でも印象深い1人として挙げられるのは、やはり六条の御息所(ろくじょうのみやすどころ)ではないでしょうか?
高校生の時に読んだ『源氏物語』では、恐ろしい女!!というイメージが強かったのですが、ここに出てくる六条の御息所は少し違います。源氏の君が惹かれるに相応しい、才色兼備の貴婦人として描かれているのです。
だからこそ、思わず御簾(みす)をくぐってしまう源氏の君の気持ちもわかるというもの!!
六条の御息所は身分が高く8歳も年上であるがゆえに、まだ17歳の源氏の君への思いを押し殺しているのですが、その姿がなんとも切ない。
このとき、源氏の君が一緒に居たのは夕顔の君。嫉妬のあまり生き霊となった六条の御息所によって亡くなるさまが、また儚いのです。
愛する人を失った虚しさから、新しい恋を探し求める源氏の君が出会ったのが、まだ10歳の紫の上(むらさきのうえ)でした。
葵の上(あおいのうえ)という正妻がありながら!!と言いたいところですが、年上であることに引け目を感じている葵の上は、気位の高さが邪魔をしてツレないのです。
しかし、なぜ源氏の君が次から次へと恋をするのかというと、藤壺の宮への募る思いを紛らわせるため。
父の帝の妃を恋うることは死にあたる罪……
もしも人を恋うることが罪ならば、私は罪人(つみびと)になろう
そう決心した源氏の君は、お宿さがり(実家に帰ること)をしていた藤壺の宮とついに結ばれます。そして、懐妊の知らせがもたらされると……、
さらに葵の上も懐妊し、それを知った六条の御息所は……。
もう何角関係だかわからないほどグチャグチャなのに、それぞれの登場人物の奥ゆかしい秘めた思いや、素直になれず行き違いが生まれる恋の切なさが、ひしひしと伝わって来ます。
そうかと思えば、頭の中将(とうのちゅうじょう)と取り合いになる末摘花(すえつむはな)や、源の典侍との話はコミカルで、とにかく読み応えがあります!!
さらに【新装版】の巻末には、『日出処の天子(ひいずるところのてんし)』などで有名な山岸凉子先生のスペシャルインタビューも載っています。
少女漫画界を牽引されて来たお2人が、高校生のころに出会った話や、アマチュア時代の持ち込みの話など、ファンにとっては堪らない内容になっています。
1巻は400ページを越えるボリュームですが、お話はまだまだ序の口。7巻まで続く超大作は、さらに面白くなっていきます。
昔、読んだことがある人なら一瞬でその頃の思い出が蘇(よみがえ)るでしょうし、読んだことがない人であれば、絶対に読むべき作品だと確信しました。
⇒あさきゆめみし 新装版 [KISS公式サイト] はこちら
https://kisscomic.com/asaki/
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp