「おもしろくてためになる」を地でいく大人気漫画『はたらく細胞』が、今度は「かるた」になった。さっそく子供たちと一緒に試してみたのだが、これがまた想像以上の「おもしろくてためになる」できばえである。
漫画『はたらく細胞』は、ヒトの体内を舞台にさまざまな役割をになう体内細胞を擬人化して登場させ、個性豊かな彼ら彼女らの奮闘ぶりを描いた物語。「赤血球」はちょっとドジでキュートな女の子、「白血球」は見た目クールだが根は熱血漢のナイスガイ、といった具合にキャラ設定され、酸素の運搬(赤血球の)やウイルスや細菌の退治(白血球)といった各々の“はたらき”をモチーフにしながら、1話ごとにストーリー性を盛り込んで構成された連載漫画だ。
各キャラクターの魅力やストーリーの面白さに引き込まれて読み進めていくうちに、人体の免疫作用の仕組みや病気・体調不良のメカニズムについて学ぶことができてしまう。文字通り「おもしろくてためになる」漫画である。
そこへさらに、かるたならではのゲーム性・クイズ性が掛け合わされて誕生したのが本作『はたらく細胞 学べるかるた』。まさに「おもしろくてためになる」を結晶化したような新作かるたである。
実際に、その中身を見てみよう。
読み札には細胞やウイルス・細菌などの“はたらき”をズバッと示す短い言葉が書かれている。五七調、七七調、自由律風……。それらの配分が絶妙で、読み飽きないし聞き飽きない。
絵札のオモテ面には、読み札の頭文字の他に、各キャラクター(細胞や細菌・ウイルス)が登場するアニメ作品のワンシーンを切り取った絵柄とそのキャラクターの名称が載る。さらに、これをめくったウラ面には各々の“はたらき”についての解説文が、小学生でも十分理解できる平易な文章で書かれている。
読み札→絵札のオモテ面→絵札のウラ面。この三段構えの名解説のおかげで、原作を知っている人も知らない人も、子供も大人も、みんなで一緒に楽しめるのが本かるたの最大の魅力だ。
すでに漫画を読んだりアニメを見たりして、原作に触れたことのある参加者にとっては、目の前に並ぶ絵札はおなじみのキャラクター。原作を知らない人より有利に戦えそうなものだが、そうとも限らない。読み札に出題されるキャラクター(細胞)の “はたらき”について理解できてなければ当然、目当ての絵札を取ることはできないからだ。
その点で、読み札の頭文字と絵柄にばかりに意識を集中させる大定番の「ことわざかるた」とはゲームの趣向が大きく異なる。クイズ的要素が強いぶん、体の仕組みに関する雑学問題に特化した早押しクイズのような感覚で楽しむことができるのだ。何ゲームか繰り返せば、先述した「三段構えの解説」効果で自然と知識も身につく。慣れてくれば、あえて絵札のウラ面(ちなみに、そこには各細胞の名称も大きく印字されている)を表にした状態で取り合うのもおもしろそうだ。
さらに、こうした実戦以外に「一人遊び」を楽しめるのも本作かるたの魅力のひとつ。そもそも絵札44枚の裏面解説それ自体がすでにひとつの読み物である。各解説文はそのキャラクターの“はたらき”についてだけでなく、他のキャラクターとの相関関係についても触れてくれているのもありがたい。
たとえば免疫細胞の解説からは、細胞同士の連携やチーム編成──「ヘルパーT細胞」が司令塔となって「キラーT細胞」にウイルスと戦う指示を、「B細胞」に対して抗体をつくる指示を出す――、さらには細胞の成長プロセス――ウイルスとの対戦経験のない「ナイーブT細胞」はウイルスと出会うことで「エフェクターT細胞」となり、さらに「ヘルパーT細胞」や「キラーT細胞」に変化する――までが浮かび上がってくる。
こうした相関関係をもとに複数の絵札をグループ分けして並べてみるだけで、免疫細胞が関わる防御システムの全体像が理解しやすくなる。紙の札ならではの強みだろう。
大勢でワイワイやるもよし、地味に一人でやるもよし。どちらもアリな、かるたである。いろんな楽しみ方がありそうだ。とはいえ……。まずはやっぱり大勢でワイワイやって盛り上がりたいものだ。ようやくコロナも少し落ち着いて、こんどの正月は友人や親戚との集まりも持てそうだ。王道のかるた合戦で、にぎやかにほがらかに新しい年を迎えてみたい。
レビュアー
出版社勤務ののち、現在フリー編集者。学生時代に古書店でアルバイトして以来、本屋めぐりがやめられない。夢は本屋のおやじさん。