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2020.09.20

レビュー

全ての大人が怪物となった世界で子供の生きる道は!?【サバイバル・ホラー】

コドモのころ、いろんなものが怖かった

『コドモのクニより』を「怖い怖い」と読みながら、中学生の頃にとても怖かったことをひたすら思い出していた。

いつか来るかもしれない巨大地震が怖かった。今でも怖いが、もっと絶望的に怖かった。



サバイバルなんて私には絶対無理だし、のたれ死んでしまうと真剣に思い詰めていた。そして地震よりもスケジュールが明らかな「進路」や「将来」。もう、何もわからなくて、考えるのも嫌だった。


この重たくて強烈な圧迫感はめちゃくちゃ覚えている。でも、『コドモのクニより』で一番怖いものは別にある。


“オトナ”だ。オトナ、絶対なりたくない。

オトナとコドモが対立するとき

14歳の“はじめ”は、進路希望の用紙に「就職」と書き込む。はじめの家は母子家庭で、かつ経済的に苦しい。「母親を支えるためには進学せずに早く働こう」という一心で、勇気を出して書き込むも……?



先生はあくびしながらこの反応。「コドモが何言ってんの?」というわけだ。


はじめの“母さん”は普段から働き詰め。だから余計にはじめは「支えなきゃ!」と思って就職するつもりなのだ。で、久々に2人で夕飯を食べようとしたとき、ふいに学校から電話がかかる。やな予感。そう、はじめの進路の話なのだ。

平謝りする母さんがぽろっと言った「まだまだコドモ」の言葉に私もグサッとくる。進路を決めろと言うだけ言って、決めたら今度はめっちゃ色々口出ししてくる。オトナ、ひたすら感じ悪い! 母さんだけはわかってくれると思っていたのに……。せっかくのシチューが台無しだ。(私はオトナ側にだいぶ近いので、はじめになんて言えばよかったのだろうと考えてしまう)

案の定2人は大ゲンカをし、はじめは家を飛び出すのだが、そこで冒頭で紹介した「大地震」が起こる。そして、それは普通の大地震ではない。



空に浮かび上がる奇妙な0と1の羅列。ゾワッとくる。ここからコドモとオトナの地獄が始まるのだ。

母さんが化け物に

本作は予想もしない方向に転がっていく。まず、母さんが“化け物”になってしまう。



ここから本作最恐のシーンが続く。この奇妙な角度と、ひたすら連呼する「ごはんよ」と「はじめ」が物悲しい。母さん一体どうしちゃったんだよ。



全身が異形の化け物に変わってしまい、顔は、表情はヤバいが母さんのままなので余計つらい。しかもはじめ達を明らかに殺そうとしてくるのだ。もう、本当どうしちゃったの?



そして化け物は母さんだけにあらず。近所のオトナも化け物となり、はじめや、はじめの同級生“伊沢サエコ”に襲いかかる。化け物がうわ言のようにつぶやくセリフがどれも「オトナ用語」っぽくて面白いので気にかけて読んでみてほしい。

大地震で崩壊した街をウロウロ闊歩する異形の化け物と、逃げ惑うコドモたち。オトナは何してんだ?

そう、もしかしなくても、まともなオトナは1人も残っていない模様。つまりコドモだけでサバイバルしなければいけない。

オトナになんてなりたくない

本作は異形のサバイバルホラーとしてかなり怖い。見た目の怖さはもちろんだが、ところどころから奇妙な圧迫感を受けて、胸が騒ぐからだ。

本作のおまけコーナー「都会でのサバイバル」シリーズの「学校で生活する」編からも伝わる。ガチめのサバイバル考察が楽しい。実は学校ってサバイバルに向いているんだな……。そして「コドモ達の自由をまもれ!!!」というピュアなスローガンに胸がざわつく。



サバイバルあるある、生き残った人々をまとめ、立ち向かう指導者ポジションのコドモ。化け物となったオトナを殺せと扇動する子だ。

盛り上がるコドモ達から一歩引いた視点で思わせぶりなことをつぶやくミステリアスなコドモ。



もう大変! みんな、不穏で荒っぽくて最高だよ!

そう、彼らの思考も行動もオトナ並みなのだ。でも、彼らはオトナじゃない。「就職する」と言ったはじめもその一人だ。もはや就職してる場合じゃないのだが、冒頭で描かれた彼の大人びた選択と苛立ちは、本作のカギだと思う。

ありとあらゆるコドモたちが、みんな自分の力で生きようとする。ちょっと気弱で優しいはじめもその1人だ。

本作のサバイバルホラーの恐怖から見えかくれするのは「いつになったらオトナになるのだろう」や「オトナになんてなりたくない」といった、あいまいで切ない声だ。空に浮かんだ奇妙な「0」と「1」の羅列もそこに通じている気がする。

そして、サバイブするコドモからオトナ(化け物)に向けられた明確な殺意に私が怯んでしまうのは、もはや私がオトナとしか呼ばれようのない側の人間だからなのかなあと思ったけれど、この居心地の悪さの正体はちがう気がする。私もはじめ達と一緒にあの校舎で大絶叫してそうなんだよなあ……でもオトナだし……。

それはそれとして、本作では「絶ッ対に、オトナになんてなりたくない!」と満場一致でみんなが思うはずだ。

レビュアー

花森リド イメージ
花森リド

元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。

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