二股なのに、なんだか爽やか
ふつうだったらドン引きというか激怒事案な展開なのに全っ然腹が立たないまま『カノジョも彼女』を読んでしまった。なんで?
二股ってこんなに愉快で爽やかなものだったっけ……? どうなってんの?
「彼女がいるけど、君を振りたくなんかない」
主人公の“向井直也”は子供の頃から大好きだった“左木咲”(フルネームで一気に呼ぶとサキサキ)と付き合うことになったばかり。
だいたいいつも大声。思ったことがそのまま口に出るような子です。ひたすら咲のことが大好きで、そんな大好きな子が自分の彼女になったわけだから、そりゃ幸せな毎日だろうなと思ったら、とある女の子の登場でおかしな方向へ。
“水瀬渚”。直也のことが好きで好きで「付き合ってください!」と告白するも、そう、直也には大好きな彼女がいる。
だから、こうやってちゃんと断るんですよ、直也。ちょっと振り絞るように答えているのがちょっと気になる……。
うわっ! やっぱりダメだ! ここでも大声でバカ正直に胸の内を叫んでます。
かくして直也は「二股がしたい!」と自分の気持ちを貫くことに……。
登場人物、全員善人!
今こうやって自分で説明しながら「なんなんだこの話」と思っているんですが、そんな真正面から二股を申し出る直也がなんだか憎めない。
二股を堂々と申し出て、彼女に殴られても(当然)、大好きな彼女が悲しそうな顔をしても、「そこをなんとか」としつこく模索する。
いつもだったら「この人、自分の土下座にどれだけ価値があると思っているんだろう」とか意地悪く突っ込んでしまうのに、なんだかできない。
なんでかっていうと、この3人みんな悪意がないというか善人なんですよ。
「二股なんて非人道的なことがクラスにバレたら嫌だ」と思う咲。そして「何も悪いことしてないのに」とビックリする直也。この謎のカオスが奇妙なバランスでずっと続くんです。ハイテンションに二股を模索します。
そんなカオスを加速させるかのように3人で共同生活まで始まっちゃいますが、ここでもドロドロにならない。
男子の夢を存分に描き切ったような状態! でもなんだかおかしい。読んでるこっちはそれまでのバカ正直なやりとりを知っているので、直也が「エッチなことなんかしない」と言ったらマジでしないんだろうなとわかる。このバカ正直さに笑ってしまうんです。そして咲と渚も同様にちょっとずつおかしい。
女同士でお風呂に入っちゃうくらいは仲のいい2人。お互い遠慮してみたり「で、相手は直也くんとどこまで進んでいるのか」を気にしたり忙しい。
心配になるくらい献身的……。
この突き抜け感がいい。渚ちゃんは気の使い方や努力の仕方が極端。
二股どころか寝てる間に携帯を覗(のぞ)き見することも。もう、本当ロクでもないんだけども終始憎めない。そう、出てくるエピソードはどれも修羅場待ったなしの地獄エピソードばっかりなのに、なんだかほのぼのしてしまう。
そして実は性への関心で頭がパンパンで空回りを続ける咲も面白い。
ぜんぜん違うタイプの彼女2名と、バカ正直な彼氏が1名。3人とも善人なのと、お互いを大好きだから、修羅場にならないんでしょうね。善人であるために常識は必須でもなんでもないんです。「オレたち何も悪いことしてない」と叫ぶ直也に「わかる」と言いそうになるし、なんだか悪いことじゃない気がしてきた。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。