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2020.02.09

レビュー

軽井沢じゃなかった!! 引っ越し先の長野の田舎で、ちょっぴり百合なJKの日常

学生時代、一度でいいから転校生という経験をしてみたいと思っていました。
転校先での初登校って、どんな気持ちなんだろう、周りからどんなふうに見られるんだろうと少女漫画の主人公気分で想像したのを覚えています。

藤川ひゆみは、引っ越し先が軽井沢だと思い込み、お洒落な高校生ライフを楽しみにしていました。
ところが越して来たのは、夜になると街灯一つない真っ暗闇で、山と田んぼしかない長野県下佐久郡中海(なかうみ)のド田舎。
しかも登校初日から古文資料集を川に落とし、ビショ濡れの制服姿で登校するひゆみ。
新しい学校で隣の席になったのは、なんと登校途中の川で助けてくれた輪湖椎奈(わこしいな)でした。

コレコレ、これぞ少女漫画の王道!! 転校生あるあるエピソード!!
しかも輪湖とは、とんでもないところで出会っていたのです。それは、混浴の露天風呂。

「男の子?」と勘違いしてしまうほど、美形でボーイッシュな輪湖は、実は女の子だったのです。そして、そんな輪湖に対し、自分でも驚くような感情が芽生えるひゆみ。



     

輪湖は、この辺り一番の地主の家系で、お爺さんは町長。彼女の家に行ったり、一緒に過ごすうち、こんなド田舎は嫌だと反抗していたひゆみも、田舎暮らしの楽しさに気づき始めます。

『ひゆみの田舎道』は、同級生から色眼鏡で見られることなく、いい人達に囲まれたひゆみのほのぼのとした話が描かれているのですが、それ以外に毎回最後に付いているのが「おまけ4コマ」。
これがなにげに「へえ~、へえ~」の連続で面白いのです。
私が一番、「へえ~」と思ったのは、「千曲川」の名前の由来。

    

正直、「千曲川」と言われても演歌に出て来る川の名前!?ぐらいしか認識がなかったのですが、なんと「信濃川」と同じ川だというのです。
長野県内を流れているときは「千曲川」、県外になると「信濃川」。
「信濃川」は、「日本一長い川はどーこだ?」というクイズで無理やり覚えさせられた以外、全く思い入れがないので、私の中では抹殺されていました。そもそも「信濃川」自体、見たことないし。

そんなことも知らないのか!と「信濃の国」が歌える長野県民から怒られそうですが、自分が行ったことがない場所って、案外そんなものです。だからこそ、知らない土地の「へえ~」というエピソードは知りたくなります。

例えば、お客様をもてなす文化がある長野では、お茶もお料理も「断らないと、すべて永遠に足される」という話。
手土産を一杯持って行ったのにコレしか出て来ないの?という経験を何度もしたことがある私としては、一気に長野県民が好きになりました。
温泉公衆浴場の数が全国NO.1というのも、無人精米機が至る所にあるという話も、ツバメが低く飛んでいるときは雨が降るというのも「へぇ~」と感心しながら読みました。

そうしているうちに、ひゆみが住む中海には1度も行ったことがないのに、なぜか懐かしい気持ちになりました。
整理券を取らなければいけない電車や単線の無人駅。夜中に起きてしまうほどのカエルの大合唱。カチカチカチッとスイッチを入れて使うバランス釜のお風呂。
こうしたことが当たり前の人にとっては、「あるある」と笑うところなのかもしれませんが、忘れかけていたものが蘇る感覚です。
もう一つ、学生時代、女友達と徐々に仲良くなっていくときの何とも言えない特別な空気感。これも懐かしい。
この先、ひゆみと輪湖がキュンとなることがあるのかないのかまだまだ分かりませんが、のんびりと見守っていきたいと思います。

レビュアー

黒田順子

「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。

公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp

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