見るなと言ったって無理がある
大げさじゃなく“深沢さん、ありがとう。”のことを考えながら年を越した。主人公の“深沢さん”を取り巻く世界と、スケベだが優しい男の人たちと、心配する女の子のことを考えた。安心するというか、絶妙にいいマンガだなあと思う。男の人にも女の人にも「よかったよ」とおすすめできる。
主人公の“深沢さん”がどんな人物であるかというと、「スキがありすぎる女性」だ。兄からのお下がりを着て、兄の服だから当然ダボダボで、ダボダボした隙間から胸の谷間や太ももが丸見えで、でも本人はなーんにも気づいてなくて、周りはドキドキして……? 現実で深沢さん状態の人に出合うと、いたたまれない気持ちになり、知らない人でもそっと声をかけたくなる。あれは事故だから。本作の“恋ヶ崎蘭”ちゃんの気持ちだ。
と同時に、まわりに「見ないで」なんて言えない。だって事故が起きたらとっさにその方向を見てしまうよなあと思うから。
うん。これ、私だって目が釘付けになるわ。
スキがありすぎる女の子
深沢さんはとらえどころのない女の子だ。いくつかアルバイトをしていて、働きぶりはいたって真面目。前述したように、着ている服は兄のお下がり。理由は「お洒落とかよくわからない」から。古いアパートに一人暮らしで、洗濯機はぶっ壊れる寸前だし、クーラーはそもそもついてない。
クーラーがないから一番涼しい廊下でゴロリと寝たり。
大雨の中トボトボ歩いてみたり。
じゃあ、深沢さんがやけっぱちな人なのかというと、そうではなくて、大切にしているポイントは沢山ある。
確かに気になる。そう、深沢さんには深沢さんのペースがあって、物事の優先順位が他の人とちょっと違うということだ。そんな深沢さんと相対した人たちはみんな調子を狂わせ、大いに惑い、視線が一箇所に集中してしまう。
あぶねー!
や、掃除は大事だけども! いやでも、あぶねー!
みんなの気持ちがよくわかる
でも、深沢さんは彼らを誘惑しているわけではない。それは彼らもよーく知っている。だから「見ちゃダメだ」と思いつつガッツリ見てしまって、「うおおおお!」と盛り上がり、生唾をのみ込み、「いかんいかん」と戸惑うわけだ。私は、彼らの「いかんいかん」と、深沢さんの無防備すぎるチラリの組み合わせがとても絶妙で良い景色に思えた。とても好きだ。
ガラガラの車両で、女子が楽しそうに話している席のそばになんとなく座る男子学生。わかるよ。
例によって繰り出される深沢さんの無防備なチラリ。どよめく男子学生。そして彼らの視線をブロックするバイト仲間の女の子。誰も悪いことしてない! 各位の気持ちがよくわかる。
本作で深沢さんに惑いまくった男の人たちは、最終的に皆とても優しくなる。それはなぜか? 深沢さんが無防備にチラリをしまくるから? 違う。
これだ。深沢さんの太ももや胸元に「ありがとう!」と感謝しつつ、そんなことおかまいなしに丁寧かつ律儀な深沢さんにグラっときて、彼らのスケベ心もシンプルに優しい行為に変化してしまうのだ。全方向的に優しくてドキドキするマンガだ。深沢さんの穏やかで楽しい日常がずっと続いてほしいなと思う。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。