うすくてやわらかい紙を1枚ずつはがすような気持ちで読んだ。そういうマンガを紹介するときは必要以上にドキドキするし、そういうマンガとは「おつきあい」が長くなる。お気に入りのページを開いてニヤついたり、寝る前にちょっと読み直したりなので、本棚になかなか収まらず、机の上にずっといる。『ごきげんよう、小春さん』とも長いおつきあいになりそうで嬉しい。いいラブストーリーです。
令和の19歳、「メイドカフェ」と「ライブ配信」で大忙し
主人公の“小春”は19歳。昼はメイドカフェで働き、夜はパソコンの前で「ライブ配信」をおこなう女の子です。現在は1人暮らしで、彼氏はこの3年間いません。
最初の数ページを読むだけで、20代前後の女の子のポップで忙しない感じが伝わってくる。
で、「ライブ配信」について。これは本作の大切な要素で、どんなものなのかというと、芸能系のお仕事をしている人も、そうでない人も、ツイキャスやYouTubeを使って生放送をやっているんです。おしゃべりしたり、ピアノを弾いたり、歌ったり、お化粧したり、おやつを食べたり。基本タダで視聴できて、視聴者はそこにコメントで参加できることも。
着圧靴下で足のむくみを取りつつ、今日あったことをおしゃべり。視聴者側の感覚としては深夜の生放送のラジオで感じる親密感と手触りは似ているけれど、もうちょっと「すぐ隣で、今まさに動いている別世界」です。本作はここの描画がむちゃくちゃリアル。
小春は「ライブ配信」の世界で人気の女の子。寝る時間を削ってでも毎日2時間近く配信をしています。(継続してコツコツと配信を続けるってファンを増やす上で大事)
生々しい。いいことばかりじゃないけれど、でもやっぱり小春にとって配信は、自分が打ち込める大切な「いいこと」です。
オンライン(=ライブ配信)のファンがオフライン(=実世界)のメイドカフェに来てくれたり。「ああ楽しい」という喜びと「もっと頑張りたい」という焦りが高速回転し続ける毎日。本作はラブストーリーですが、配信の世界の人間模様や、“人気配信主”である小春の心の動きもすごく「読ませる」んです。
そんな小春が出会うのが、偶然メイドカフェにお客としてやってきた"駿"。
小春や、そもそも配信のこともよく分からず職場の友達に連れられて来た駿は、かなり後味の悪い形で小春と出会ってしまいますが、あっという間に小春のファンになります。で、あまりに小春が好きすぎて、お店に通い詰め、ライブ配信も初心者ながら常連の視聴者に。
小春がお店と配信という2つの世界で忙しいのと同じように、駿もオフラインの小春とオンラインの小春を追いかけるのに夢中。視聴初心者なのでまだ配信の世界の「お作法」がわからないけれど、駿は物怖じしません。とにかくストレート。そんな駿の姿に小春は次第に惹かれてゆきます。でも、配信主とそのファンの恋愛って、どんな感じ?
どうか私の感情が表情に出ませんように
小春にとって配信はとても楽しいもので、全力投球でやっています。だからこそ、小春はファンとの距離感をとてもセンシティブなものとして慎重に取り扱っています。アンチだっていますし、熱烈なファンだった視聴者がいつの間にかいなくなってしまうことだって日常茶飯事だから。駿のことがすごく気になっているのに、忘れられないのに、駿は自分に興味をなくして他の配信に夢中になるかもしれないから。
駿が配信を見てくれているのかどうかは、駿からのコメントがない限り、配信主の小春にわかりません。今までだってフェードアウトしたファンは大勢います。だから小春は、駿と「お茶」に行く日、キュッとアイラインを強く引きながら、ふさふさのまつ毛で瞳に影を作りながら、念じます。「どうか私の感情が表情に出ませんように」と。ドキドキして、すごく嬉しいのに。
1巻では配信主とファンとの間の感情の揺れ動きが丁寧に丁寧に語られています。駿も「彼女にとって俺はファンの一人だし、邪魔はできない」と身を引こうとして……、
この小春の表情。もう、私は、小春のちょっとした仕草や心のつぶやきに夢中です。小春の視聴者になりたい……もっといろんな小春が見たい……。
あ━━━! たまらんよ━━━! 寄せては引いて、でもやっぱり溢れかえってしまう恋とドラマをぜひ感じてください。気がめちゃくちゃ早いですが、2巻はオリンピックで賑やかであろう2020年の夏です。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。