知っているようで、実はよく知らない漫画家というお仕事。しかも女性の新人漫画家が主人公のお仕事漫画となれば、知られざる漫画家の生態!?や業界の裏側が見られるわけですから、のぞき見気分で期待値も半端なく上がります。
『笑顔のたえない職場です。』の主人公は、初めての連載がコミックスとなって売り出されることになった新人漫画家・双見奈々(ふたみなな)25歳。
5歳年下のアシスタント間瑞希(はざま みずき)、通称はーさんから「先生」と呼ばれてはいるものの、しっかり者のはーさんから絶えず鋭いツッコミを受け、本当に大丈夫なの?という感じの子。
深夜の2時に、やっと出来上がったネームを担当の女性編集者に送っていいものかどうか迷うところでは……。
ニッコリはーさんが事あるごとに言う「いいから仕事して♡」は、私のツボでした。
それにしても、双見先生にここまで妄想させてしまう担当はどんな人なのかというと、美人で仕事もできる、いわゆるクールビューティ佐藤楓(さとうかえで)29歳。
双見先生は、佐藤さんに仕事のメールを送るときですら「いい文面が全く思いつかない」と何分もかかったり、電話1本かけるのにもウダウダ考えて結局かけられないありさま。
しかも、送ったネームに対し「即レス」がないと、こんな妄想が膨らんでいきます。
双見先生は、とんでもない妄想癖の面倒くさい、こじらせ女子だったのです。
と言いつつ、私もメール1本送るのに1時間かかることはよくあるし、自分からは電話をかけられないし、原稿のOKが出るまで落ち着かないし、妄想癖も激しいので、コレって私か!?と思った途端、もう双見先生を応援せずにいられなくなりました。
特に編集者の佐藤さんに出会う前の双見先生が、当時の担当からダメ出しを食らうところ。
どこの世界にもいるんですよね、こういうフワッとしたことしか言えないくせに上から目線の奴! どれだけ労力がかかってると思ってんだ! 人様の作品に文句を言うなら本気でかかって来い!! と思わず言いたくなりました(笑)。
だからこそ、この前担当が双見先生のカラー作画にケチをつけたときの佐藤さんの返し、「双見の担当もう私なんで、口出さないで頂けますかね」には、シビれました。
こんなふうに闘ってくれる担当がいたら、とことん付いて行きます!と誰もが思うのではないでしょうか。
相手は先輩にあたるわけですから、佐藤さんだって余程の覚悟がなければ言えないセリフなのです。
だけどこの一言に、作品を創る同志としての佐藤さんの本気度が伝わりました。決して本人の前では作品を褒めないクールな人だけれど、本当は熱い人なんじゃないかって。
アシスタントのはーさんもそうです。Twitterでバズるほどの漫画を描き、出版社から連載の話が来ても断ってしまうのです。
そんなの後から見つかるかもしれないんだから、目の前のチャンスを掴め!!と私だったら思いますが、はーさんは漫画家という仕事の大変さを実際に見ているので、こういう決断を下したのでしょう。
『笑顔のたえない職場です。』は、漫画家・アシスタント・編集者という3人の信頼関係と相手に対するリスペクトが根底にあるところが、単なるワーキングコメディではなく、プラスアルファの面白さになっていると思います。
しかもそれが、ベタベタとした友達のノリではなく、節度ある関係だからこそいいのです。
そして多少なりともこうした世界のことを知っているからこそ言わせていただくと、現役で働いている人がその業界のことを描くのはとても難しいのです。ネタがあり過ぎて、どこを切り取ってどこを捨てればいいのか迷うはずなのです。
そういう意味でも、とてもよくできていて面白くて、尊い作品だと思います。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp