350ml缶片手に読んで!
ビールでもチューハイでもコーラでもいいので350ml缶で何かを飲みながら読んでいただくと、本作はより一層楽しめると思う。2人のヒロインが抱えるそれぞれのリアルがよくわかるはずだ。『小さいノゾミと大きなユメ』は、この題名のとおり、ゆるく優しくかわいいマンガだ。
小さい女子高生と、大きなニート
舞台はとあるワンルームのアパート。ヒロインの“小岩望実”は高校2年生……いま、なぜだか記憶がない望実にはそれ以上の情報がない。大変。でもそれより大変なのは望実のカラダだ。
本人もなんでだか全然わからないけれど、身長が12cmしかない。おつまみの乾き物がクリーチャーに見える。後ろに並ぶ空き缶も発泡酒のそれだし、なんだこの宅飲み会場みたいな場所は……?
こちらがこのお部屋の住人。大きい。彼女は“大久保由芽”。ニート歴1年のお酒好きな22歳。毎日ひとりぼっちで発泡酒を飲み、ゴミを置きっぱなしにしながらワンルームの自宅にひきこもって暮らしている。そんな汚部屋で、望実はせっせとサバイバル生活を送っているのだ。これがリアルで楽しい。
まず「ごはん」。先に紹介したように、この汚部屋で乾き物はカンタンに手に入るが、望実はご飯やドーナツなんかの炭水化物が食べたい。ゴミ袋の山を越えつつ部屋を探すと……?
あった! でも厳しいもんがある……。それにこれが床に転がっているのは結構大変な状態だと思う。次は「寝具」。今はとりあえずビニールにくるまって眠っているが寝心地は最悪。
あるかなー?
のっぴきならない状況とはいえ、12cmになったとはいえ、絶対に譲れないものがそこにある。しかし望実は生活能力が高いようで極力「衛生的に」暮らそうと知恵とガッツを振り絞る。12cm向けのお風呂なんて当然ないけれど、望実は……? こんなふうに「急にちっちゃくなっちゃったらどうする!?」な奮闘記があれこれ楽しめる。
でも本作はそれだけではない。そう、もう1人かわいくて大事な人がいる。この部屋の住人であるニートの由芽だ。彼女は現在ひきこもりでもあって、この描写もやっぱり「奮闘記」なのだ。
お先真っ暗系女子が「外」に出るとき
由芽は1年前に仕事をやめた。今は1日中発泡酒片手に家でごろごろ。
この状況がよくないことを由芽は知っているけれど、今はとにかく全部「見なかったこと」にして日々をやり過ごし中。だから携帯に誰かから連絡が来たらギョッとするし、それが母親だったりするとなおさら憂鬱に。
故郷の方言が出たり引っ込んだりの言葉づかい。発泡酒をすすりながら母親や将来をふと考える表情。いろんな描写がすごくいい。で、いろんなことを「見なかったこと」にしている由芽は、自分の部屋に"何か"がいることに気づいてしまう。そう、めっちゃサバイバルしまくってる12cmの望実だ。酩酊しているから? 人生がいよいよ煮詰まってきたから? っていうか何がいるの? トラップを仕掛け、息を潜め、お酒をあおる由芽。
望実は望実で「巨人にバレる!」とゴミの間を逃げ隠れするが……?
とうとう対面。お互いパニック! でも、2人は協力態勢をとることになるのだ。
自分だって記憶喪失だし、生き残らないとどうにもなんないし、もうなんだってやるぞという望実のど根性。かわいい。
ほんの些細なことすら超大変になっている由芽は、「小さくて可愛い女子高生がお先真っ暗なウチを助けてくれる」と信じて少しずつ変わっていく。こっちもかわいい。
キュッとシャープな容姿でポジティブな望実と、ふわふわで甘えん坊な由芽。2人はしばらくワンルームで一緒に暮らすことになりそうだけど、お互いが抱える「トラブル」が解消されるといいなあ。頑張れ!
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。