初恋のバリエーション
少女まんがを読んでいると「初恋」と「ファーストキス」に詳しくなる。自分1人だと「初」は当然1回こっきりだけど、作品の世界で何度でも体験できる。とても楽しい。で、ちょっとやそっとの初恋じゃ動じなくなる。動じないだけで、どの初恋にも美点があってキャッとなるのだけど。
そんな初恋ソムリエみたいな状態で『星くんは恋を忘れてる』を読んだ。この初恋、パワフルでトリッキーで元気で元気で元気で楽しくて、すごいです。
私も同じように「ざわざわ」しっぱなしで読みました。初恋のバリエーションがまた増えたよ!
食いしん坊ガールの100点満点な初恋
主人公の“天沢そら”は高校1年生。「いつまでたっても食べ盛り」とプロフィールにキチンと記載されるほど、常に何かしらモグモグ美味しそうに食べている元気な女の子です。
ジャムをたっぷり塗った食パンをくわえてダッシュで登校。ヘルシー。「待ってよ」と追いかけているのは幼馴染の“風太”。
そんな食いしん坊なそらのことを友達も「おーよしよし」といった感じで可愛がっていますが、そらには、大人びた彼女たちとは決定的に違うところがもう1つあります。
すでに初恋を経験して、キスも経験しているんです。友達の反応からもわかるようにまさかの展開。いつのまに!? それはさかのぼること5年前。
こちらがそらの初恋とファーストキスの相手“霧谷星(きりたにせい)”くん。1つ上の学年です。学校を休みがちな星くんは、ちょっと治安がよろしくなさそうな大人に囲まれて、心ない噂もあって、夏祭りの屋台でも少しキケンな雰囲気。でも、そらと星くんはこの夏祭りで打ち解けます。そのきっかけはというと。
はい、やっぱり「食べること」。食って大事だよね。そしてそらはとても怖い目に遭うのですが、そこでも星くんが助けてくれます。この夜を境にそらと星くんは親しくなり、毎日一緒に遊ぶ仲に。でも、楽しい日々は星くんの急な転校によって終わってしまいます。ショックを受けるそらに、星くんは……?
100点満点のシチュエーションと言葉で「そらが好きだ」と言います。美しい! そして2人は100点満点なファーストキスを経験します。
そんな100点満点にロマンチックで美しい初恋を大切に覚えているそら。そりゃ、お星さまにお願いしちゃうよね。
「初恋」と「唐揚げ」
お星さまはちゃんとそらの願いを聞き入れてくれます。星くんが転校してくるんです。イケメンかつ英語ペラペラで。
大きくなってるー! ……が、なんだか様子がちょっとヘン。
そらのことを「しらねー」とあしらいます。しかもこの捨て台詞やフェイスブックの写真を見るに、とんでもないくらいチャラ男でパリピになってる……なにがあった……?
いきなりですが、ここでまた「食」に戻ります。すっかり別人のような星くんの態度にショックを受けたそらは、好物の唐揚げ(下ごしらえの段階で食卓に待機するレベル)すら「いらない」と言い、1人ぽろぽろと涙をこぼします。心配するママとパパ。とはいえ、そらは「いつまでたっても食べ盛り」なので、お夕飯をちゃんと食べるんです。ここから本作の名シーンが始まります。
「ごめんなさい」と食卓につき、家族みんなでいただきます。
冷めた唐揚げを口にして「五年も経(た)てば星くんとの恋も冷めちゃうんだ」と涙をこぼすそら。ここでママが素敵なことを教えてくれます。
二度揚げすればいいのよ、と。ハッとするそら!
さめちゃった恋は、もう一度あたためなおせばいいんだ(唐揚げのように)! ここは本当に「読んでよかったな」と思いました。こんなに美味しそうで元気な初恋みたことないもん。
高校2年生にしてクラブの常連で夜遊びしまくって派手なお姉さんに囲まれている星くんのような男の子は、初恋に憧れる女の子からしてみれば難度が高すぎる相手かもしれません。たくさん泣いて、たくさん傷ついて、もうほんと大変。でも、そらは諦めず元気に頑張ります。(食べることも、やっぱりたくさん登場します)
そらの髪型に注目してください。少し大人っぽく成長しているんです。そらがどうやって初恋をあたためなおしていくのか、星くん恋を思い出せるのか、幼馴染の風太はどう関わってくるのか……あれこれ楽しみですし、やっぱり食べ物が出てくるんだろうなと期待しています。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。