どんな手を使っても「君を世界一のアイドルにする」
「オイ、これ面白いぞ!」と教えてもらったことがきっかけで読み始めた『電人N』。描写はグロテスクかつ血みどろズルズルだし、主人公はどうしようもないし、ヒロインもずっと涙目。なのに「いいねえー!」みたいな感想が口から出てしまう。
とある男が売れないアイドルの女の子を応援しまくって周囲に悪辣なレベルで大迷惑をかけるマンガなのだが、とにかく彼の「応援の方法」がいろんな意味で異様で過剰で大間違いなのだ。
『オペラ座の怪人』もドン引きな『電人N』の世界を紹介したい。
名前をちゃんと呼ばれない主人公が超人となる
主人公は高校を中退した若者“那須忠太”。
彼の生きがいは、売れない女性アイドルグループ“レッフェ”の“神崎みさき”。毎日ヘッドマウントディスプレイでレッフェのライブ映像に没入し、生きていくための「燃料注入」をしている。
観客も他のメンバーも全部消して、ただただ神崎みさきだけを見ている。この「燃料注入」は、文字通り彼が生きていく上での唯一の燃料で、彼の置かれた境遇の恵まれなさが察せられてなかなか辛い気持ちになる。なんせ那須くんをちゃんと名前で呼ぶ人間が皆無なのだ。バイト先でのコンビニでは“チュータイ”という雑かつ失礼なあだ名で呼ばれ、家庭でもアル中の母親から“アンタ”と罵られる始末。
そんな那須くんの不運と不幸は止まることなく、とうとう事故死をしてしまう。しかもかなり凄惨な死に様で、なんなんだよ彼の一生は……という気持ちになる。
が、彼はこの事故をきっかけに超人「電人」となるのだ。
電人は、すべての電子機器を操り、電子の世界を自由に行き来できる存在。めっちゃ楽しそう! いいぞ! 嫌な店長もぶっ潰せ!
コピー機だって自由自在。……と、ノリノリになったのもつかの間、那須くんの行動は、極度に凶暴で、しかも引き続き「生きがい」を追求するばかりなのだ。
超人が「正義の味方」でもなんでもなく、壮大な「悪の権化」でもなく、単に個人的な恨みと生きがいを屈折したカタチで追求しまくるとどうなるかというと「わがままだなー」を飛び越えマジで大迷惑だった。
応援が露骨で凶暴すぎる
恨みを晴らした電人・那須くんは神崎みさきをあらゆる手段で見つめ、彼女を守り始める。
信号も青ばかり、粘着質なファンは詫びのツイートの後姿を消し、最初はみさきも「ラッキー」なんて喜んでいるのだが……。
自分たちよりも売れているアイドルグループがいなくなるといいなあと雑談で口にすれば、
目の前でロケバスごと電車に轢かれライバルが即死。もちろん電人の手による「神崎みさきをナンバーワンにする」ためのアシストだ。
先に述べた粘着質なファンだって電人によって「排除」済み。詳細は伏せるが、ご飯が喉を通らなくなる感じの排除方法だ。ゴア表現が好きな人は期待して読んでほしい。
露骨すぎて警察にロックオンされる
やることなすこと全部「神崎みさきのため」なのだが、肝心の神崎みさきが全然喜んでおらずドン引きしているのが悲しい。で、そんな露骨なことをしていたら当然「何かが変だぞ」と誰でも思う。
警察も動き始めることに。
超人すぎて怖いものなしな電人は、警察にも容赦なし。「神崎みさきに近づくな」という警告をド派手に繰り出す。バレバレとかそういうものではない。ストレートすぎる乱暴者なのだ。自分たちが相対しているのが只者ではないことを理解した警察は「ある人物」に捜査を依頼することに。
被疑者である電人には“電人N”という名前が与えられ、かくして、謎の天才と電人Nとの対決が始まる。
哀しいサイコスリラー
誰彼かまわず殺戮を繰り返す電人Nには、那須くんの不器用さがちょっとにじみ出ている。「どんな手を使っても」がマジで悪手すぎるうえに、肝心の神崎みさきがずっと涙目で、読んでるこっちも残酷な描写を見ても「あーああ」みたいなツッコミが口から出てしまうのだ。
ホント、このくらいで留めておけばよかったのに……。
「最近面白いマンガありました?」と若い男性に質問され、とっさに「“電人N”すごいよ!」と即答した。紙でもウェブ媒体でも「ちょっと読みたくなる」のだ。バイラル性が高いマンガの名前が『電人N』というのは、なかなかぴったりすぎて小気味いい。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。