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2019.07.04

インタビュー

大反響!! ツイッター発の人気漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』の魅力

空前の猫ブームの中、犬と猫“どっちも飼い”を題材にしたエッセイコミックが、犬派も猫派も世代も超えて大反響を呼んでいる。もともとこの作品はツイッター上で発表されていたものだが、周囲の声に後押しされる形でマンガアプリ「パルシィ」で連載、さらに単行本になった。5月13日には第3巻も発売され、その累計発行部数はすでに50万部を突破している。著者の松本ひで吉さんと、長年担当編集を務める安達崇が、あらゆることが型破りだったこの作品の魅力を語った。

ツイッターのフォロワー数は100倍以上に!

『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』著者・松本ひで吉さんと担当編集者

松本ひで吉さんと担当編集者が『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』の魅力を語る

安達 『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』が世に出たきっかけは、2017年の2月頃、松本さんが何気なくツイートした「うちの犬はお菓子の袋をあけるたびにダッシュで来る……」という、飼っている犬についてのかわいらしい一文でしたよね。

松本 そのつぶやきに反響があったので漫画にしたら、一気にリツイートの嵐に。ドキドキしながらもう1本描いて投稿してみたら、また同じくらいバズったので、楽しくなっちゃって……今に至ります(笑)。

安達 それ以降、「パルシィ」での掲載もあって、フォロワーも爆発的に増えました。2017年2月当時の松本さんのフォロワー数は約3000でした。現在は約33万ですから、100倍以上になった形です。

松本 そうか、100倍ですね。ただただ、うちの犬と猫が可愛いって話を「その気持ちが収まらないからマンガにしてみたけど、どう!?」って感じですからね。それを学校に持っていったら、コピーされて回覧が始まり全校生徒に見られてしまった、みたいな(笑)。

安達 それが正しかったってことですよね。10年以上キャリアがあり、アニメ化作品を2回も生み出している松本さんには、もともと熱烈なファンもいました。ただ、デビュー当時から担当させてもらっている編集者としては、松本さんがその実力通りの評価を受けたという手応えを感じたことは一度もなかったんです。もっと人気が出るはず、もっと売れるはずという勝手な思いがずっとあって。自分の力不足を感じてました。あとから考えれば、ですが、松本さんは短い作品を描くのがすごく上手なので、ツイッターでの見せ方に、その才能がとても合っていたんですよね。短い時間でサクサク読ませるのに、満足感もある。

松本 ものすごい勢いで拡散されて、勝手に毎週連載して、そこにまた反応があるので楽しかったですね。マンガ家ってたぶん、お金もらえなくても「わぁ〜! 面白い!」って言われたら描くんだと思います(笑)。

安達 松本さんのツイッターアカウント自体が一つの作品という印象があります。日常でつぶやくちょっとしたことが、すごく面白いんですよ。僕はデビューからずっと近くで接していたので当たり前のように思っていたのですが、じつはそこにとんでもない価値があって。

松本 しょうもないこと、よくつぶやいてるよね(笑)。

安達 そうそう。フォロワーとの大喜利的なかけあいが異常なくらいうまいんですよ(笑)。しかも刺激的な言葉は徹底して使わず、ほっこりした笑いにあふれているから嫌味がない。そうやって作品だけでなく、松本さんの人柄自体にファンがついたから、コミックスだって安心して買ってくれる。人柄への支持はエッセイコミックの作家として最大の財産だと思います。

ツイッターならではの試行錯誤

松本 今は毎回アップした途端に反応があって、楽しくてしょうがないんです。今までは苦労して読者の方の受け止め方を知ろうとしていたのに。

安達 かつては読者アンケートや書店員さんの声を知りたくても、どうしてもタイムラグがありました。今は回ごとにリツイートやいいねの数が、如実に違いますからね。その反応をお互いに共有しています。「ああ、この回はそんなに人気はなかったけど、次の回やその次のフリになっているから。これからホップステップジャンプにはなるよね」なんてことを話しています。

松本 ただ、ツイッターでの人気に流されてはいけないと思っていて。数字はあくまでも参考程度に、と考えています。

安達 アナログからどうやってデジタルに広げていくかっていうのは、ある程度答えは出ていました。それが一周して、デジタルのものをいかに紙に戻していくか、というのは先例がなかったので、部数や装丁、書店フェアや店頭広告物まで、とことん悩みました。

松本 全話、ツイッターで読めるし、まとめサイトがいっぱいあってそこでも読めましたしね。

安達 ええ。でも、宣伝部も販売部もライツの担当者もみんな犬を飼っていて(笑)。これは出すべきだし、コミックス化したときに部数をちゃんと積めるはずだ、と熱く熱く応援してくれたんです。前例のないものとしては頑張ってくれて初版3万7000部でしたが、初日で売れてしまった。

松本 発売日の午後に即日重版が決まったんですよね。2刷が4万部と聞いて、ちょっと怖い気もしたんです。売れ残ったりしないかなって。でも、スマホを使わない父や母に読ませたいって方がとても多くて。ふだん漫画を買わない方からもたくさんメッセージをいただきました。

第1話から完成されていた作品の形

『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』(67話)より

『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』(67話)より

安達 多くの人に受け入れられたのは、このマンガの完成度の高さだと思うんです。ツイッターには4枚までイラストが載せられますが、この作品はそれをあえて2ページに削ぎ落としたことで、読者から奪う時間を最小限にしています。普通なら犬か猫どちらかで作品にまとめないとテーマがぶれてしまうのに、犬でホロリとさせて、猫で笑わせて気分爽快! という黄金のパターンを確立している。

松本 それは、たまたまね。でも、いつ見にきてもらっても、また同じ気持ちになれるものが読めるという安心感があるように、と意識しています。

安達 しかも、日本中で猫キャラが大人気のこのご時世に、それをまったく忖度せず、猫のルックスをありえないほど恐ろしい形相に描いてみせた……。こうした要素のどれもが作品の核になっていて、一つでも欠けてしまっていたら、今の人気はなかったと思うんです。1話目にしてすべて揃っていたんですよね。あのたった2ページの第1話は、松本さんの10年以上のキャリアの集大成そのものだったと今思うんです。

松本 フリーハンドの落書きのようなマンガだけど、10年の修業が生きてるなって思いながら描いています。コマ割りとか、セリフの回収したりするとき、「私、マンガ家やってるな!」って思いますよ(笑)。

デビュー作はヤングマガジンに掲載

安達 松本さん、キャリアは10年どころじゃないですよ。

松本 え、本当に?

安達 デビュー作が掲載されたのは2006年だから13年ですね。当時、私はヤングマガジン編集部にいて、松本先生から新人賞の応募をいただきました。ものすごい数の応募作のなかから、光る作品については、編集者みんなで「僕が担当したい。なぜならば、これこれ、かくかくしかじかですから」とアピールして、担当を名乗り出る熱い会議があるんです。

松本 ええ。そのときなんて言って決まったんですか?

安達 ジャンケンだったのかな(笑)。

松本 (笑)。

安達 でも、やはり松本さんの担当をしたいというやり手の先輩編集者がいました。トイレで出くわして「俺、あの作家さんイイと思うんだ」「僕も」と語り合いながら、連れションした記憶があります(笑)。

松本 ほんとですか。ストーリーは、ペットショップでアルバイトをしている高校生の女の子が、珍獣がすごく好きなんだけど、カミングアウトできない。それをカミングアウトさせようとするバイト先の店長の策謀にどんどんハマっていくっていう……。

安達 その頃から動物が本当に好きだった。

松本 そうなんですよ。珍獣ブームなんて全然なかった。時代を間違えた。早すぎましたね。あのころはネットが今ほど便利じゃなかったから、図鑑を読みながら描いていたんですよ。

安達 すごく丁寧に描いていましたよね、あの頃。線がすごく多かった。今が丁寧じゃないとは言いませんけども(笑)。

松本 おかしいな(笑)。

安達 とても面白い作品で。それで僕は首尾よく担当させていただけることになりました。で、初めてお会いしたときにすごいびっくりして。女性だと思わなかった。

松本 男性名ですもんね。当時のペンネームは「松本秀雪」だったのかな。

安達 そうでしたね。それから投稿作品を改題して作り直してヤンマガと別冊ヤンマガに3回掲載されたんです。それがデビュー作の『珍獣王国のワカコさん』。今読んでもきっと面白いんですけど。

松本 うん、面白いと思います。

どんな作品の打ち合わせも動物モノになっていく……

『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』(74話)より

『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』(74話)より

安達 その次は私が少年誌(月刊少年ライバル)に異動になって、描いていただいたのが『ほんとにあった! 霊媒先生』。これが初めての連載作品で単行本になった作品ですね。単行本は20巻まで続きました。

松本 あの作品も動物マンガじゃないのに、こっそり1巻のカバーの下に珍獣の写真を入れて、やめられなくなるという。

安達 黒猫っていう一番人気があったキャラクターがいたんですけど。全然、霊媒先生とは関係ない。

松本 そうなんですよね。まあ、黒猫って不吉な感じがして、出してもいいんじゃない? みたいな感じで、なぜか猫が出てきてしまうというか。打ち合わせしているとどうしても動物が登場する展開になるんですよね。

安達 『ほんとにあった! 霊媒先生』はヒットしてアニメ化もされましたし、講談社漫画賞も受賞しました。その後、今度は私が「なかよし」に異動になって。「なかよし」でも描いてくださいってお願いしたんですね。「ヤングマガジン」から「なかよし」……。すみません、幅がありすぎて。

松本 いやー、なかよし編集部さん、懐が広いなと思いましたよ(笑)。私でもありなんだと思って。やりたい放題やらせていただきましたよね。

安達 そうそう。それが『さばげぶっ!』ですね。サバイバルゲームの部活を舞台にしたすっとんきょうな設定で、こちらもアニメ化されました。それにもなぜか動物が出てくる。

松本 カモノハシのカモちゃんというのが出てきて。今から考えると、必ず動物を登場させてますね。

安達 動物を描く運命だったんでしょうね。まあ、勝手に描く人だったっていうか(笑)。

松本 ええ、勝手に(笑)。

「人生で初めてマンガを読んだ」という読者も

安達 松本さんは、本当にフォロワーさんとの関係がいいんですよね。

松本 確かに、いろんなインタビューを受けたりしても、それをよく指摘されます。いい関係を作れているのは、本当にラッキーなことだと思います。

安達 与えて、与えられてという、本当にいい関係です。一度も炎上したことがないし。フォロワーとの距離感がいいんでしょうね。満を持してのぞんだコミックス1巻の発売時、有隣堂横浜駅西口コミック王国さんでサイン会を開きました。犬くんと猫さまへのかわいい差し入れを手に集まっていただいた100名の参加者で熱気が凄くて震えましたよ。

松本 そうでしたねー。わりと几帳面なところがある犬派の方たちは、開始と同時に押し寄せて。猫派は後半戦にゆったり来場するという(笑)。

安達 一番驚いたのは、参加者の中で日常的に漫画を読んでいるという方が非常に少なかったことです。

松本 「人生で初めてマンガを読みました」って方もいましたね。

安達 「コミックスの売り場がわからなくて、受付のお姉さんに聞いて来たんです」という方とかね。こちらが想像していた読者像じゃなかった。

松本 いつものサイン会と全然違いましたよね。

安達 この作品は今までと違う層のファンを持っている、もしかすると大ヒットするかもしれない……! とドキドキしたことを、昨日のように覚えています。

松本 犬派も猫派も、結構みんな熱い思いを持っているんだなっていうのは、この作品を描いて初めてわかったことですね。

安達 キャラクターが実在しているからでしょうけど、この作品にはまったく嘘がないというか。犬が本当に犬らしくて、猫がすごく猫らしい。犬派も猫派も楽しめるし、共感できるんでしょうね。

松本 犬が突き抜けてバカだったというのもあると思います(笑)。これまで飼ってきたなかでも、犬ってこんなにバカだっけ?ってくらいだから、思わずマンガにしたい! となったわけで……。

安達 確かに、犬くんはすごくいいキャラクターです。

松本 あとトカゲも忘れちゃいけない(笑)。トカゲ界の人たちからリアクションがとてもあるんですよ。爬虫類を飼っている人たちって、自分のペットを自慢すると「ちょっとやめてよ」って言われるから、ネットになかなか写真をアップできないんです。だから、私がマンガに描いたときも、「他の人が見るからあれなんですけど……」「もし良かったら……」と奥ゆかしく写真を見せてくれるんです。みなさん真面目でいい人が多いんですよね。人が嫌いなもの飼っているっていうシンパシーがあるんですよ。謎の一体感(笑)。

安達 猫さまも、いつもじっとトカゲを観察しているんですよね。

松本 めっちゃ見てる。いつか食べてやるぞ、と……。

安達 そうなんですか(笑)!?

松本 トカゲだから、あのしっぽってちぎれるんですよ。大ダメージだから絶対やっちゃいけないんですけど、猫があれを1本食べたら幸せだろうなと(笑)。太くてプリップリのしっぽには栄養が蓄えられていて、脂肪分の塊なんです。あのしっぽだけで何キロカロリーあるんだろ……2ヵ月くらい生きられるほど高カロリーらしいですよ。

安達 へえー!

松本 きっとジューシーで、猫には相当おいしいと思います(笑)。

限定版の付録は前代未聞の靴下2足セット

第3巻限定版の付録「犬猫くつしたセット」を手にする著者と編集者

第3巻限定版の付録「犬猫くつしたセット」を手にする著者と編集者

安達 付録つき限定版コミックスを出すのも、定番になっていますね。第2巻のときは、「18種360枚・完全描き下ろし大量ふせん」を付けました。

松本 一番最初に考えたのが、猫のふせんでしたね。本の間から猫のふせんが出ていて、「この辺で終わるかな」って思うと、胴体が思ったよりすごく長いっていう(笑)。

安達 あれはウケましたね(笑)。

松本 「コイツすごいバカだな」っていうのを続けていると、「あの人ならやりかねん」みたいな感じで、なんか楽しんでもらえるんですよね。

安達 第3巻では、これまた前代未聞の「犬猫くつした2足セット」。

松本 最初、「靴下を付けたい!」って言ったら、安達さんにすごい嫌がられましたよね(笑)。やんわり2回ぐらい断られました。こういう感じです!って写真を送ってたら、安達さんも揺らいできて……。

安達 だんだんと、可愛いじゃんって思えてきました(笑)。何か実用品がいいなというのは最初から思っていました。毎日履くもので、その日のテンションがちょっとでも上がれば、そんなに幸せなことはないなと。

松本 うんうん。

安達 それに、実際の靴下の仕上がりも、一見松本さんのセンスが大爆発してしまっているように見えますが、日常的にフォロワーと交流して会話をつむいでいる中で考えてもらったものなので、奇抜なようでいて動物好きのツボを外さない、すごく実用的な商品作りになっているんです。手にした人が、履いた画像や映像をたくさんアップしてくれました。かなりバズりましたね。うちの編集長も動画を撮ってツイッターに上げてたな(笑)。

松本 みんな、ふざけたくてしょうがないんですよ(笑)。大人だから普段は耐えているけど、本当は変な靴下履きたいんですよ!

安達 そうだったのか(笑)。でも、これ売れなかったら在庫どうしようなんてこともちょっとは思いましたが、本当に話題になってめちゃくちゃ売れましたね。

松本 これから、さらにハードルが上がりますね。モノが普通でも、「まじかよ!」って付録を考えたいです。思い切りふざけるけど、裏切らないものを……。

安達 考えましょう。ぬいぐるみやクッションなど、夢のように素敵な商品化のお話もたくさんいただいていますから、みなさんにも楽しみにお待ちいただきたいですね!

松本ひで吉 イメージ
松本ひで吉

「なかよし」にて『ねこ色保健室』を、自身のツイッターにて『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』を連載中。『ほんとにあった! 霊媒先生』で第35回講談社漫画賞を受賞。

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