夕方6時のアニメのように
唐揚げの香ばしい匂いを吸い込みながら、お膳立てを手伝いながら、のんびりテレビを見る……なんて、もう何年もやっていないし、多分もうやらないのだけど、あの穏やかで懐かしい時間を思い出した。『魔王さまの抜き打ちダンジョン視察』は、そういう居心地の良さを与えてくれるコメディだ。
捕獲されたイノシシのようになっているのが "魔王さま"です。こんな状態ですけど、いま彼は「視察」をしています。
魔王らしくない魔王さま?
物語はとある魔王城から始まります。
このたどたどしい女の子が下級悪魔の"ヨユヤ"。本作のもう1人の主人公です。魔王の代替わりに伴い新魔王のお世話係として雇われた新人さん。「王様」ってだけでも結構恐れ多いのに、そこに「魔」までくっついちゃうからヨユヤのお世話の難度は高いだろうなと思うのですが……、
"魔王さま"は、怖さゼロどころか遠足前のお姿です。リュックサックをバリバリ背負い、片足までちょっと上がってる。
「魔王がダンジョンに向かう」って、こんなだったっけ?
魔王さまがダンジョンを視察なさる理由
魔王さまが抜き打ち(=ノーアポ)でダンジョンに向かう理由は2つあります。
ふむふむ。もう1つは……?
えっ? 魔王の仕事じゃなくないか? ヨユヤの冷静なツッコミを読んで「ははーん」となる。魔王さま、さてはダンジョンが大好きなのね? 私も今までいろんなダンジョンに挑んできたので魔王さまの気持ちはちょっとわかる。「腕がなるぜ」みたいな気持ちで足を踏み入れるのだ。
本作でもいろんなダンジョンが登場します。とはいえ魔王さまはプレイヤーではなくて、ダンジョン側の存在。
解説が渋い。この解説からもわかるとおり、魔王さまの「ダンジョン視察」は私たちの冒険というよりメンテナンスや諸国漫遊記っぽさがある。こっちはこっちで楽しそう。いいなー。で、問題はここからです。ダンジョンで何が起きるのか?
レベル低めのトラップにすら、もれなく引っかかっているんですよ。ヨユヤじゃなくて魔王さまが。魔王さまだからなのか、顔面に矢がぶっ刺さっても全然死なないんですが、マヌケではある。慌てるヨユヤがかわいい。
やっぱり魔王さま!
全エピソードが「ド天然な魔王さまとヨユヤのダンジョン漫遊記」なので、やっぱり夕方のアニメや時代劇のようなのんびり感が持ち味なのですが、それだけじゃないんですよね。「このドジ全開な人は、本当に魔王さま?」という疑問に、かなり素敵な答えをくれます。
いざという時の強さと品の良さが「王」なのだなあと思う。付き従うお世話係ヨユヤも「魔王さまのダンジョン視察」のベストパートナーになってゆきます。
目元を黒い布で覆っているヨユヤのビジュアルが好きだ。魔王に仕える従順さと、真面目さと、悪魔のほんの少しの怪しさがある。そのぶん口と仕草がエモーショナルでかわいい。
良い王には、良い従者が必要ですね。特に、無防備すぎる魔王さまがダンジョンを視察なさるときには。ダンジョンのトラップに慣れる様子が一切なくて笑う。引き続きいろんなダンジョンに出向いていただきたいです。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。