どんなときも、全力で守ってくれる男性がいる。女性にとってこれは、究極の願望ではないでしょうか?
そんな愛情を損得勘定抜きでくれるのは父親ぐらいだと思うのですが、もしそれが赤の他人だったら、しかもイケメンヤクザだったら。
5歳のとき、交通事故で両親を亡くした瀬名垣一咲(せながき いさく)は、唯一の肉親でヤクザの組長である祖父に引き取られました。
そのころから一咲の世話係をしているのが、瀬名垣組若頭(わかがしら)の宇藤啓弥(うとう けいや)。
家がヤクザということで友達ができず、コミュニケーション障害ぎみの一咲は、高校生になったらフツーに友達をつくり、フツーに部活動をし、フツーに恋をし、フツーの青春がしたいと思っていました。
ところが、入学した高校の同級生に啓弥がいたのです!! 26歳の裏口入学おっさんヤクザ!! 啓弥の役目は、一咲に悪い虫がつかないようボディガードすること。
この100%あり得ない設定に、これぞ少女マンガ! と拍手喝采です。
啓弥はボディガードを通り越して、「番犬」と呼ぶに相応しい異常なまでの過保護ぶり。もし、少しでも一咲に近寄る男がいたら、どこからともなく啓弥が現れ、蹴散らします。
今どき、小学生だってこんな子供じみたことしないわ~ってぐらい子供みたいな啓弥に、思わず可愛い! と思ってしまいますが、口から出るセリフはザ・ヤクザ。
体育館の裏では、お決まりのウ○コ座りで煙草をふかすし、気に入らないことがあると、舎弟相手にピストルまで持ち出すし。
そして爽やかな笑顔で、こんなことも言い放ちます。
このギャップがね、たまらないのですよ。
街で一咲がチンピラに絡まれたときも、啓弥がスッと現れ、即座にボコボコ。
こんな頼もしい男性が、いつも近くで守ってくれたら、絶対に好きになってしまうなぁ。ましてや両親を亡くし、心細く思っているときに「俺がパパとママになります。おにいちゃんにもなります」なんて言われたら。
そうなんです。実は一咲は、啓弥に恋をしているのです。
しかし、許されない存在であるヤクザに恋をしても、未来はないと思っている一咲。だから啓弥への思いを断ち切るために、ほかの男の子を好きになろうとしているのです。なんて健気な子なんでしょ。
組長の孫娘と若頭が結ばれれば、瀬名垣組も安泰じゃない。何を迷うことがあるの? むしろ孫娘の特権で啓弥をモノにすることだってできるし、もし何かあったらお爺ちゃんに泣きつこう……と思っている私とは大違いです。
一方、啓弥はというと、一咲の思いを知ってか知らずか、思わせぶりな態度をとるのです。頭ポンポンならまだわかるのですが、一咲の膝に頭を乗せてニコッとしたり、後ろから抱きかかえて添い寝したり。
いくら子供みたいに可愛いったって、足まで絡めるって明らかにやりすぎでしょ! でもこれが、女をたらし込むヤクザの手口か?と思ってしまいました(笑)。
微妙な距離感の中、この先、絶対に何かが起こるだろうと思わせてくれるところがまた、なかなかなのです。
子供のころから妄想癖の激しい私ですが、ヤクザの組長の孫になり、ヤクザに恋をするという想像はしたことがありませんでした。
でも絶対にない極端な設定だからこそ、その世界観にどっぷりと浸り楽しんで欲しい作品だと思いました。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp