アニメ『コードギアス 反逆のルルーシュ』をはじめとする、数々のヒット作を手がけてきた谷口悟朗監督。彼の手がける最新作が、『revisions リヴィジョンズ』であり、アニメ放映と並行する形でコミカライズされたのが本作だ。
高校2年生の堂嶋大介は、幼い頃、誘拐事件に巻き込まれ、幼なじみの仲間たちに助けられた過去がある。
この時、大介は、救出に手を貸してくれたミロという謎の女性に、「あなたたち5人に、いつか大変な危機が訪れる。その時、あなたがみんなを守るの」と予言めいたことを言われる。
それ以来、大介は「俺がみんなを守る」というヒーロー願望に取り憑(つ)かれる。幼なじみに近づく人間を、片っぱしから殴って排除していく大介は、仲間たちにも呆れられていた。
そんな当たり前の日常は、ある日、一変する。彼らが通う高校は渋谷にあったが、突如、廃墟の中に飛ばされていた。実は、渋谷の街が丸ごと、2388年の未来に転送されてしまったのだ。
「街ごと転送」の設定、新しい!
この後、大介だけは嬉々として駈け出す。それまで、ヒーローになりたかった彼は、予言された「その時」がついにやってきたと感じていたのだ。
が、ここで面白いのは、誰もパニックに陥らないところだ。大介の仲間も、他の生徒たちも、「何で校舎の向こう側がないの?」「とりあえず災害用伝言サービスを試そう」「俺、備蓄を調べてくる」など、意外なほどに冷静だ。
2000年以降に生まれ育ったミレニアル世代は、いわゆる、ゆとり、さとり世代で、「無気力諦め型」の傾向も強いという説もある。良くも悪くも、「何となく目の前の出来事を受け入れる」というこの空気には、今時の若者っぽさがにじんでいるのかもしれない。
大介は屋上に出て、廃墟が広がる風景に向かって、「俺が皆を守るんだ!! 何でもかかって来やがれ!!」と叫ぶが、この時、周囲に立つ生徒たちも誰一人として騒いでいないところにも注目だ。左側の女子生徒の2人は、「やばくな~い?」「それ、わかりみ~」とフツーに会話しているようにも見える。
パニック系の物語において、この風景は少々異様に見えるが、ミレニアル世代は、生まれた時からITが身近にあったデジタルネイティブ世代でもある。「スマホの画面越しに現実世界を見るような、他人事感覚を表現してるのかも?」と深読みしたくなる。
そういえば、事件が起きる前も、送信者不明の謎のメールが5人の元に届いていた。物語における重大事を知るのも、やはりイマドキはスマホなのか。
さて、本筋に話を戻そう。大介が叫んだ直後、廃墟の中から不気味な巨大ロボットが現れる。そして、屋上にいる生徒を襲い始めたのだ。
それでも大介は現実を受け入れられず、逃げることもせず、それを横目で見ていた。そして、「皆を守れだって? こんな奴から?」「無理に決まってる!」と思うのだ。
そこに現れたのが、予言をしたミロにそっくりな女。だが、彼女は、「大介に会ったことはないが、その名を未来予測で知っていた」と話す。そして、大介に戦闘用の強化スーツ、ストリングパペットを見せ、「ここで待っていろ」と指示する。
大介はそれをミロの言葉を無視してロボットに乗り込み、「俺の使命はこのことだったんだ」と意気込んで戦闘を始めるが、あっという間に形勢が悪くなる。そして、ストリングパペットに身を包んだ、自分の仲間に助けられることに。
実は、ミロは、人類滅亡を図る宿敵、リヴィジョンズに対抗する組織、アーヴの一員だった。彼らの計画を阻止し、人類を救うために、時を超える力をもったエージェントを派遣しているという。そして、アーヴの未来予測の結果、大介を含む仲間たち5人を、「世界を滅亡から救う可能性がある者」として選び出したというのだ。
ここから、リヴィジョンズやアーヴをはじめ、謎に包まれていた全容が次第に明らかになっていく。渋谷区長や警察署長、さらにはリヴィジョンズ側の代表を名乗る不思議な生物なども登場。とにかく展開が早く、物語がサクサク進むので、それもまたイマドキっぽい。
そして、事態が明らかになっていく中でも、大介は、「皆を守れるのは、俺だけで十分だ。認めさせてやる」という一人よがりな思いにとらわれ続け、そこから取り返しのつかない失敗を重ねていくのだ。
大介をはじめ、強化スーツに身を包む5人の仲間たちは、ある日突然、日常の世界から、非日常に連れて行かれ、人類を救うために力と使命を与えられた。
その大き過ぎる力と責任の中で、イマドキ風の若者たちが、どう挫折し、どう立ち直り、そして、どう成長していくのかに注目したい。
レビュアー
貸本屋店主。都内某所で50年以上続く会員制貸本屋の3代目店主。毎月50~70冊の新刊漫画を読み続けている。趣味に偏りあり。
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