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2019.01.20

レビュー

森見登美彦ワールドの原点、『太陽の塔』奇跡のコミカライズ!

デビュー作を忘れない作家のことは一生忘れない

「デビュー作大好き男」とお酒を飲んだことがある。小説も、AVも、音楽も、徹底してデビュー作を至上とする人物で、めんどくさいなと思いつつも「尋(たず)ねればデビュー作が即わかる」機能と愛は素晴らしく「レッチリの1枚目は?」などとオッケーグーグルのように慕い、それなりに楽しかった。

でも彼のめんどくささは、わかる。「デビュー作」は特別だから。お気に入りの作家だとなおさらだ。

自分がお気に入りの作家は、たくさん売れてほしい。みなに愛されてほしい。そして、その人の愛すべき魅力のうち、いちばん凶暴なものは大抵の場合デビュー作のなかで見つかる。だから好きな作家のそれは、頭の中の一等地にしまい込み、ときどき諳んじてその牙を確かめるのだ。(「これは俺のゴンドラ」などと)

『太陽の塔』は森見登美彦のデビュー作である同名小説のコミカライズ版だ。15年前を懐かしみつつ、あたらしい何かと出会うつもりでドキドキしながら読み始めた。




そうだ、こんな凶暴かつ痛々しい宣言で始まったんだった。コミック版である本作もこの言葉から始まり、さらに、たった1ページで「うっ」と切なくなる。濃厚。覚悟しなきゃ。
先にお伝えすると、このコミックも凶暴で痛々しく、おもしろいの地雷原だ。原作を知らない人も、私のように思い出してニヤニヤするくらい原作を好きな人も、安心して、でも心して読んでほしい。


俺たちの『太陽の塔』

むさ苦しい男子大学生。グラマーな歯科衛生士。そして毛深い狸。森見作品の世界ではみんな愛らしい。そしてキュートなだけじゃなく痛々しかったり切実だったりなので、とにかく全力で全員の味方をしたくなる。

本作の主人公“私”は京都大学の5回生(休学中)。

現在は彼女なし。そう、かつては恋人がいたのです。



こちらが元・恋人の“水尾さん”。こんなに水尾さんの詳細をたくさん覚えている“私”は、水尾さんとの失恋を引きずりまくった結果、以下のような日々を送っています。



「水尾さん研究」。四畳半の下宿部屋の本棚で、結構なスペースを占める水尾さん研究のファイルたち。こんなにあったのか……。

この“私”の強烈な行為を中心に、真冬の京都(たぶん死ぬほど寒いしカップルめっちゃいる)で、恋と妄想と青春と男子大学生の哀切がとぐろを巻くのが『太陽の塔』です。



“私”の傷口に塩をグリグリ塗り込む“イブ”という名の魔物。これは味方にならざるをえない。


痛々しくも気高い男たちと、ただならないもの

“私”の周りには、ある意味において似たり寄ったりな男子が多い。読むと心の地雷が爆発しまくるのに一緒に最後まで付き合いたくなるのは、彼らのおかげだ。

“私”の水尾さん研究を「ストーカー行為」として警告する“謎の男”。

そして、この謎の男による「非人道的中傷(by “私”)」に立ち向かうべく暗躍する“飾磨(しかま)”。彼は“私”の親友(心友)です。



飾磨が繰り出す名言と面白エピソードは本作の大切な要素だ。


1巻では「飾磨の夢玉事件」が語られています。ああ、我が心のベストテン好きなキャラ部門総合上位にいつも飾磨がいる。また会えて嬉しいよ。

真冬の京都で失恋にもがきまくる男子大学生とその仲間たちにゲラゲラ笑いつつ、彼らの哀切さや必死さへの「答え」というか「祈り」というか、そういう捉えづらいデリケートなものたちも、本作は描いています。


こんなふうに、シームレスにヌルッと「ただならないもの」に包まれる心地よさと切なさをぜひ体感してほしい。ここで描かれている電車は京都の“叡山電車”です。ほかにも地に足のついた京都の風景がたくさん出てきます。



京都を味わい深く美しく描いたマンガなのに、無邪気に京都に憧れられず、むしろ「京都に近寄ってはいけない」という気持ちにさせるのは、きっと簡単なことじゃない。要注意だ。特に寒い時期に読むと心身に堪えて大変良いと思います。

太陽の塔(1)

著 : かしの こおり
原作 : 森見 登美彦

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レビュアー

花森リド イメージ
花森リド

元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。

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