普段、何気なく過ごしている日常は、さまざまな出来事がリンクして生地を編むように紡がれ続けている。風が吹けば桶屋が儲かるように、誰かが前に取った行動が伏線となって後々の出来事に影響してくる。そんなつながりをもつお話は、何度読み返してもその度に新鮮な発見をもたらしてくれるから得した気分になる。
そうやって繰り返していくうちに、少しずつ自分が作品の世界に入っていけるような作品はずっと色褪せない。あらゐけいいち先生の『CITY』はそんな気持ちになれる作品です。
家賃を2ヵ月も滞納したうえにギャンブルでスッカラカンになるような、いまどき珍しく清々しい程ダメ人間で文無しの大学生「南雲美鳥」。彼女が自分の撒(ま)いた種で騒動を起こして街を駆け回り、そのせいで無数の登場人物が振り回されて、街中がドタバタとした喜劇に巻き込まれていくスラップスティックコメディです。
あらゐ作品おなじみの登場人物たちによるダイナミックな表情が!行動が!リアクションが!何度読み返しても飽きのこない味わいを産み出しています。
4巻目を迎えた現在では南雲の周りに集まるキャラクターのエピソードが積み重なってより明確になったので、CITYの住人たちの日常がより鮮明に見えるようになりました。4巻のオビもみんなが主人公、って謳(うた)っていますしね。
本作を読んでいると、この『CITY』の街では、今までも同じような日常が続いていて、これからも同じように続いていくのだろうなと感じます。そんなところにちょっとだけ神の視点で仲間に入れてもらえたような感じがする。主観視点というよりも、観察者という立場ですね。
この感覚は何というか、オープンワールドのゲーム(スカイリムだとか、ゼルダの伝説だとか)をプレイしているように、街に息づく人たちを観察して楽しむような気持ちに似ている気がしました。
たとえば1巻から、つい最近この街に赴任した「本官さん」という警察官が登場します。
前任の警察官「タナベさん」は街の住民に慕われていたそうで、赴任したての新人警察官として自分もそうなりたいと意気込んだところを、南雲の騒動に巻き込まれていってしまいました。気の毒。
そんな「本官さん」の前任、「タナベさん」の正体が次第に明らかになっていくところなんか、完全にストーリーの本筋とは直接絡まないサブクエストの趣です。なので繰り返し読み返していくことで、コマの片隅に転がっているネタを探したり、前後のネタのつながりを探したりして楽しんじゃうこともできます。というか4巻のコレ、見開きで4回分もあるので、ここの変化を見比べるだけでも時間が過ぎていきます。
そしてあらゐけいいちファンにはたまらないポイントが、日常の世界と同じユニバースのお話であることが見え隠れしているところです。1巻の帯に描かれた『日常』のゆっこと南雲がハイタッチをしているカットが雄弁に語っていますが、
南雲が卒業した高校は「時定東高校(ときさだめひがしこうこう)」なので、きっと『日常』のゆっこ達が通っていた高校の近くにあるのかな……とか、そして今はひとり暮らししているわけなので本作『CITY』の街は時定高校から遠く離れた地なのかな……とか、タウン誌CITYにマンガを描く予定だった長野原大介先生は『日常』の「みお」のペンネームだ……! とか、
長野原先生のスタジオ名は「みお」が『日常』で投稿した作品名だ……! とか、探せばたくさん出てきます。
『日常』の読者からしてみたら、作品世界のつながりと時間の経過を感じられて、クスリとするようなネタも小粋に出してくるので見つけるとちょっとうれしくなれるでしょう。
「いっぱいありすぎて選べない楽しいこと」の中で「一番楽しいこと」を探す南雲は、もしかしたら本作品にちりばめられたいろいろなネタを探すわれわれ読者自身なのかも? なんて思ってしまうくらい多くの伏線や今後のきっかけがちりばめられた作品です。4巻までで60人超も登場しているCITYの仲間たち。活き活きとした彼らをこれからもウォッチしてみるのは如何でしょうか。
レビュアー
静岡育ち、東京在住のプランナー1980年生まれ。電子書籍関連サービスのプロデュースや、オンラインメディアのプランニングとマネタイズで生計を立てる。マンガ好きが昂じ壁一面の本棚を作るものの、日々増え続けるコミックスによる収納限界の訪れは間近に迫っている。