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2018.11.18

レビュー

超高齢化社会の果て──。衰え老いることの恐怖を描く介護ピカレスクホラー

人生100年時代というものの、寿命が延びたからと言って老化がその分遅くなっているなんていう話は聞きません。そりゃまあ、昔に比べれば若々しくハツラツとした高齢者を目にすることが多くなっていますが、加齢に伴う老化、それによって衰えていくことの恐怖というものは老化に対しての恐れの裏返しかもしれません。つまり老化による衰えは誰しもが逃れられない「恐れ」と言っても良いのではないでしょうか。



実際、20ン歳過ぎれば年をとるのはあっという間とか色々言われますが、この『臨終の要塞』は、人間の老い、そして介護といった誰しもが逃れられないテーマを巡り、ある高級老人ホームにて繰り広げられていく問題作です。

舞台は郊外にある富裕層向けの高級老人ホーム、「羽部園」。
一見、広く綺麗な施設に見えるものの、外からの視線を避けるように、まるで要塞のように建物が敷地を囲っている、ちょっと変わった施設。



施設長と名乗る男は夏なのにマフラーを首に巻き、見るからに怪しい雰囲気。そんな施設に「研修」
という名目で招かれた介護士のお話から、この物語は始まります。

その介護士は、昨今ニュースを騒がせているような入居者を虐待する介護士、実松(さねまつ)。彼が本来所属する施設では、担当のおじいさんを日常的に虐待していました。



そんなところに「羽部園」から名指しで実務者研修の指名をもらい、郊外にある「羽部園」に出向くことになります。

そして怪しげな施設長から、施設長が独自開発したという高齢者疑似体験装置「ウラシマ」のモニターに協力してもらうという名目で取り付けられると、実松はまるで85歳の高齢者くらいの身体能力にされてしまうのです。

目はかすみ、関節はうまく曲がらないようになり、耳も遠くなる。それもそのはず、「ウラシマ」は装着した人間の身体能力を85歳まで低下させ、若者の力を無力化する装置であるからなのです。当然、自らの意思では取り外しができない――





そう、この「羽部園」は、高級老人ホームでありながら、高齢者に対して罪を犯した若者を無力化させて入居させる施設でもあったのです。

実松や同じような行状で入居させられた若者たちは、逆に老人に介護されるという恐怖を味わいながら閉じ込められたまま一生をここで送ることを強いられる。
そんな環境に絶望した実松は脱走を企てるものの、因果応報といえる結末で絶命してしまいます。

コミックDAYSにある試し読みで読める、「介護士実松」のエピソードを読むと、老人に悪事を働いた若者に天誅を与えるオムニバス形式の物語なのかな、などと予想してしまいますが、その予想は鮮やかに裏切られます。実松の顛末はあくまでプロローグ。そこからストーリーは大きくうねりを見せ、壮大な介護ピカレスクホラーの姿を見せてきます。

なぜ、若者を無力化させて軟禁状態に置くのか。怪しげな施設長、羽部は一体何者なのか。「羽部園」で行われているおぞましい人体実験とは何なのか。

テンポ良く進んでいく物語は疾走感にあふれ、超高齢化社会である現代がはらんでいるさまざまな課題に対し、一太刀浴びせていくさまは物語が本来持つ陰鬱な設定に反し爽快感にあふれています。

このままの調子で高齢化社会と少子化が進んでいけば、世代間対立、世代間の闘争は起きてしまっても不思議ではない状況と言っても過言ではないといえるでしょう。



現代を生きる人間の実質的な終の住処として老人ホームは超高齢化社会において欠かすことのできないもので、おそらく私もお世話になるかもしれないものですが、逆にいうと終の住処であるからこそ、一度入居したら出ることができない、という言いにくい現実にスポットライトを当てた本作は、自分の老後を始め、自分の親の介護、家族の親の介護などという現実を目の当たりにしてくれた感があります。

レビュアー

宮本夏樹 イメージ
宮本夏樹

静岡育ち、東京在住のプランナー1980年生まれ。電子書籍関連サービスのプロデュースや、オンラインメディアのプランニングとマネタイズで生計を立てる。マンガ好きが昂じ壁一面の本棚を作るものの、日々増え続けるコミックスによる収納限界の訪れは間近に迫っている。

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