たくさんの命を救う名医も最初はみんな何も知らない学生だった。医療の道への一歩を踏み出した医大生たちの青春と成長を描いた漫画『春よ来るな』のコミックス1巻がついに発売! 原作の草水敏先生と作画の濱﨑真代先生から作品についてのメッセージをいただきました。
1972年、島根県仁多郡出身。漫画原作者。趣味は飼い犬のお世話。代表作は病理医が主人公の『フラジャイル』。徹底した取材から得るリアルな描写と、人間味溢れるキャラクターが魅力。
1992年、長崎県長崎市出身。漫画家。高校時代から漫画を描き、『クロノ・モノクローム』の磯見仁月先生、『モッシュピット』の今野涼先生のアシスタントをしつつ投稿を続ける。月刊少年マガジン2016年3月号より『春よ来るな』で連載デビュー。
草水先生からのメッセージ
どうして彼らは医者って仕事を選んだのかなあ
──医大生漫画というのはとても新しいですね。どうしてこの題材を選んだのでしょうか?
草水敏先生(以下:草水):『フラジャイル』(アフタヌーン連載中)でたくさんの医師たちの日常を描いてきて、ふと「どうして彼らは医者って仕事を選んだのかなあ」と思ったことが出発点です。第一線で活躍されている医師もかつて医大で学び、その前は受験生だったわけです。なぜ、医大を志望したか。なぜ、その科を専門にしたのか。唯一無二で百人百色の物語に興味がわきました。しかも取材してみると医大生の皆さんのキャラが本当に面白くって。皆勉強に慣れているし要領が良くて論理的思考に強くてメールの返信がおそろしく早い(笑)。そして、全員に通底する空気感があるのが不思議だなと。それは1年生と2年生でも違うし、5年と6年でも違う。大学によっても違ったりします。この空気感の正体については、これから本編で書いていきたいと思っています。
「楽しそう」という思いだけで飛び込んだ世界。しかし難病の少女との出会いに、都築は自分の覚悟の無さを感じる。
──作中で「覚悟」という言葉が何度も使われているのがとても印象的です。
草水:医者って大変な仕事だと思うんです。労働時間は長いし、人の命を扱う責任の重さは想像を絶します。そういうことを医大に入ったばかりの彼らはなーんも知らない。でも大学での6年間を経ただけで医者としてのスタートラインに立ち、人の命を扱うようになるわけです。6年間かけて「覚悟を決める」んですね。日本中にいる医大生は、夢があったりなかったり、人付き合いが得意だったり苦手だったり、ケンカしたり、サークル活動したり、バイトしたり、学内恋愛したりする個性的だけどちょっと頭のいい普通の若者です。主人公の都築くんはその中でも特に普通の子で、その子がとんでもない密度の6年間を経た後、どんな奴になるのか。僕自身もとても楽しみなんです。彼らが、どうやって医者になっていくのかを読者の方にも楽しんで読んでいただけたら嬉しいです!
悩み、友と語らい、都築は医者になる覚悟を決めるための大学生活を始める。
濱﨑先生からのメッセージ
どんな苦悩があり、それをどう乗り越えるのか?
──濱﨑先生は『春よ来るな』がデビュー作です。医大生をテーマにした漫画の話がきた時はどう思いましたか?
濱﨑真代先生(以下:濱﨑):正直「難しそう…! 私で大丈夫か!?」と思いました。でも「医大生の『青春』」という点にとても興味を引かれ、俄然やってみたくなりました。医大生の学生生活にスポットを当てた作品はなかなかないと思うんです。命を扱うお仕事を目指す彼らがどんな青春を送るのか。どんな苦悩があり、それをどう乗り越えるのか。そういうところが『春よ来るな』の見所だと思うので、そこがうまく伝わるように丁寧に描くように気をつけています。
──草水先生は都築以外だと友塚さんが大のお気に入りだそうです。濱﨑先生はどのキャラクターがお好きですか?
濱﨑:友塚さん良いですよね! 昔少女漫画を描いていたこともあり、女の子描くのが大好きです。だから、親川さんも良いですね。あと、私も草水先生と一緒で都築くんは別格です。都築くんはとても普通なので他のキャラの濃さに負けてしまわないよう、見せ場は主人公らしくカッコ良く見えるよう特別扱いして描いています。メガネを描くのが苦手なのでいっつも苦戦しながらですが(笑)。
勉強すればするほど出来ないことがあると痛感する都築。それでも「何もしない」ことだけはしたくない。
──草水先生から「うずらの行動実験の授業とか骨学の授業とか絵にするだけで大変なものばかり登場させてスイマセン!」「1話で友塚さんが手をプルプル振るところ最高でした!」というメッセージをお預かりしています。濱﨑先生から草水先生に何かメッセージはありますか?
濱﨑:たくさんのところに取材に行かれていて、その行動力を尊敬しています!と(笑)。
──最後に読者の方へもメッセージをお願いします。
濱﨑:『春よ来るな』は私にとって初めての連載で初めて単行本になった作品です。今でも実感がなく夢心地の中にいます。でもそういったことを抜きにしても、医大生が医師になるまでというあまり知られていない世界のお話は一読者としてもひとりでも多くの人に知ってもらいたいと思っています。少しでも興味を持って手にとっていただけたら嬉しいです。
卒業する時、医者にならない決断をする仲間もいるかもしれない。それでも今は共に夢へ向かって!
文/松澤夏織