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2016.03.16

レビュー

「な、なんだってー!」MMRはギャグマンガの最高傑作

本書は、『MMR』の新作です。
たぶんそう伝えただけで、多くの人は「えっ、MMRって復活してんの!」と驚くことでしょう。

いかにも、MMRは2012年に、あの黄金期のメンバー―キバヤシ、ナワヤ、タナカ、イケダ、トマルで復活しており、本書はその2冊目に当たります。

母 体は「週刊少年マガジン」ではなくなっており、厳密にはMMRという名前(Magazine Mystery Reportageの頭文字をとったもの)で呼ぶのはおかしいのですが、そこにツッコんではいけません。詳細は後述しますが、それは重大なルール違反に当 たります。

「MMRがオリジナルメンバーで復活している」ということを知ったあなたのとるべき行動はひとつだけ。

「な、なんだってー!」
と叫ぶこと。ただそれだけです。

MMR は、1990年代に「週刊少年マガジン」編集部内に実在した組織の名前です。メンバーはリーダーのキバヤシ以下、全員が「週刊少年マガジン」の編集部員で した。『バクマン。』のヒットのおかげで、マンガ編集者に対し一定のイメージを持たれた方も多いと思いますが、あればっかりが編集者の姿ではありません。 この作品だってマンガ編集者の姿を描いているのです(どっちが現実に近いかは言いませんが。)

MMRは当初、超能力者・清田益章や、霊能 力者・宜保愛子などに取材をおこない、身のまわりのさまざまな謎や不思議を追いかけることをテーマとしていました。しかしやがて、ほとんどすべての謎が預 言者ノストラダムスと彼が残した預言詩に結びつくようになっていきます。リーダーのキバヤシの断定と、それを受けたその他のメンバーによる「な、なんだっ てー!」というセリフが確立するのもこのころのことです。

そのMMRが復活している。そう聞いて「おかしいな」と思った人、いるでしょ?

ノストラダムスは1999年の世界滅亡を予言していたはずじゃん。その予言、はずれたじゃん。9・11もイラク戦争も東日本大震災も、世界を揺るがすような大事件は、ぜんぶ1999年より後に起きてんじゃん。

はい、その通りです。
あなたは正しい。

しかし、前巻でキバヤシはこう語っています。
「ノストラダムスは1999年に世界が滅びるとは言っていない!!」

もしノストラダムスが言ってないなら、世界滅亡を唱えていたのはおまえじゃないかとツッコミたい気持ちは、たいへんよくわかります。しかし、そこでツッコんではいけません。キバヤシの断定には「な、なんだってー!」と答えるのがこの作品のルールです。

伊集院光が、この作品にたいして次のようなことを語っています。

「MMRは、ギャグマンガの最高傑作である」

バカボンのパパがどんなにおかしなことをやったって、そこにツッコむ人はいないでしょう。『天才バカボン』はギャグマンガだと、みんな知ってるからです。本作も同様に考えるべきだ。伊集院光はそう主張しています。私も彼の意見に同感です。

前作はMMRメンバーの再結集(みなきちんとオッサンになってます。約1名、ぜんぜんルックスが変わってない人がいますが)と、なぜ再びノストラダムスに依拠するのか、が大きなテーマになっていました。

本作ではそれを受け、キバヤシ節がいよいよ全開になっています。要するに、あの黄金期のMMRのスタイルが、完全復活しているのです! キバヤシはノストラダムスの預言詩を解読することにより、新たな世界滅亡の日時と、その理由を明らかにしています。

何度かツッコミを入れたい瞬間はあるでしょう。しかし、何度も言いますがそのときあなたがとるべき行動はただひとつです。

「な、なんだってー!」
と叫ぶこと。

それを繰り返すうち、あなたは気づくはずです。
「な、なんだってー!」と叫べるのは、キバヤシの断定にふれたときだけだってことに。

い や、もちろん言うことは可能です。「な、なんだってー!」って。簡単です。でも、ほとんどの読者は気づくことでしょう。それは、正しい「な、なんだっ てー!」ではない。キバヤシのセリフに対応して発する言葉と、質的にまるで違うんだ、ということに。すなわち、MMRの復活は、あなたにその貴重な機会を 提供しているのです。

そこに不思議があるかぎり、MMRは何度でも復活する。そのたびに「な、なんだってー!」と叫ぶ機会を与えられているのだとしたら、われわれは感謝しないとなりません。この世に不思議が存在し続けることに。

「ねとらぼ MMRインタビュー」前編はこちら

「ねとらぼ MMRインタビュー」後編はこちら

「ねとらぼ MMRインタビュー」おまけ編はこちら

「MMR」試し読みはこちら

レビュアー

草野真一 イメージ
草野真一

早稲田大学卒。書籍編集者として100冊以上の本を企画・編集(うち半分を執筆)。日本に本格的なIT教育を普及させるため、国内では じめての小中学生向けプログラミング学習機関「TENTO」を設立。TENTO名義で『12歳からはじめるHTML5とCSS3』(ラトルズ)を、個人名 義で講談社ブルーバックス『メールはなぜ届くのか』『SNSって面白いの?』を出版。「IT知識は万人が持つべき基礎素養」が持論。2013年より身体障害者になった。

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