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2016.05.13

インタビュー

東村アキコがポロリ「海月姫の尼〜ずは、石田拓実が作ったの」 

『進撃の巨人』は石田拓実のアイディアだった!? 東村アキコの攻めの現場とは!? 古くからの友人同士である漫画家ふたりが考える少女漫画の行く末とは! 漫画家同士だから語れるエピソードと、お互いの作品について語ってもらう対談前編です。

石田拓実

1993年、「ぶ~けデラックス」秋号掲載「姉妹の法則」でデビュー。現在は「Kiss」で”たたない”元彼とのやっかいな共同生活を描いたラブストーリー『カカフカカ』を執筆中。

東村アキコ

1999年、「ぶ~けデラックス」NEW YEAR号増刊にて『フルーツこうもり』でデビュー。『海月姫』(講談社)で第34回講談社漫画賞少女部門など、数々のマンガ賞を受賞。現在は「Kiss」で『海月姫』『東京タラレバ娘』を連載中。

──東村さんと石田さんが昔からのお知り合いというのは、2015年のマンガ大賞にも輝いた東村さんの『かくかくしかじか』(集英社)でもおなじみですが、今日は改めておふたりの友情の歴史からお話を伺いします。

東村: 『かくかくしかじか』で描いたように、「Cookie」(集英社)のパーティーで出会ったんだよね。へんなミイラの人形みたいの腰にさして、矢沢あい先生のそばの床でビールラッパ飲みしてた。

似顔絵

石田: あー、エジプト展のみやげ持ってたんやな。

東村: それで知り合って仲良くなって、私がそのあと大阪に引っ越したんで、石田さんちの実家(石田さんは大阪在住)によく遊びに行くようになったの。

石田: わたしもアキコはんのマンガ好きで、『きせかえユカちゃん』(集英社)がはじまる頃にはふつうに“東村せんせーやん”って感じだった。 それで、「ファっ!ていくやろなー、この子」と思ってたら、予想を上回る速さでファっ!といきおりましたわ。

──石田さんのおうちには漫画がたくさんありますけど、特にご自身が描いていらした「ぶ〜け」「Cookie」は雑誌のまま保管されてて、おふたりが同時に掲載されている号もいっぱいお持ちとか。

東村: 石田さんちって、たしかに「ぶ〜け」と「Cookie」大量にある。捨てられないんですよね、モノを。

石田: デビュー前後の「ぶ〜け」は全部ある。

東村: 私、アシスタント歴がなかったから人の作業現場を見たことなかったの。だから、いろんな漫画の道具とかを知らなくて、石田さんとこに手伝いに行ってはじめて、いろんなことを教わった。あと、締切の修羅場っつーか、地獄っつーか、「あっ、こんなほんとに、こういう漫画とかドラマみたいなことあるんだ」というくらい、すごい時を間近で見て……。で、漫画をどうつくるのか、すごく勉強になったんですよ。

石田: 修羅場の勉強……。

東村: 私は、割と原稿が早いんですよ。あまりギリギリにならないから、自分の分が終わってから石田さんを手伝いに行っていました。それも毎月ですよ。それが、普通だったらどっちも連載してるんだから、そういうのってないじゃないですか。当時の編集担当さんから「東村さん、終わったあと石田さんのとこ行ってね」みたいな指示があるくらい(笑)。妊娠してた時も行ってたんですよ!

石田: 腹に画板のせてトーン貼ってた(笑)。

東村: あと、忘れられないのは、石田さんの2番目のまさこというお姉ちゃん。普通だったらきた人に「お世話になってます妹が〜」みたいな感じの挨拶をするじゃないですか。私も「すみませんお邪魔してます、お友達で……」みたいな感じで挨拶をしようかなって思ってたんだけど、いきなり、ばーんって隣に座ってきて「焼酎にきゅうり刻んだの入れたら、メロンの味になるで」って。

石田: うちの一家は来客大好きで、テンションあがって距離感がわからなくなってしまうんですよ。

東村: 「ああ、そうなんですか〜」と答えたら、2言目が、「チョリソー食べる?」 私が呆気にとられていたら、「チンしてくるで! 辛いけどな! 辛いけどな!!」とかわけわからないテンションで。そのとき仏壇横にあるテレビでモーニング娘。の録画を見てたんだよね、みんなで。なんか家のレイアウトとかもちょっと謎で、なんかいちいち変わってた、石田家。テレビの上には食べ終わった蟹の甲羅の洗ったやつが飾ってあったんですよ。

石田: すっげーおいしかったから記念に。

東村: 石田さんちは東大阪のディズニーランドっていうか。夢の国っていうか。私にとって絶妙な面白さがあった。こんなこと言ったらほんとに怒られるけど、『進撃の巨人』の構想、石田さんの中では小学校くらいのときにあったからね(笑)。石田さんが、チョコレートのアポロを人に見立てて、自分が巨人としてうえーって食べるっていうのをやってたって話を聞いてて、あたしは『進撃の巨人』が始まったときに、“あれ? これ石田さんが言ってたあれじゃあ……”ってマジ思ったから。

石田: しかも、ちゃんと山になって、奴隷として働いてる奴らがいて……。

東村: 壁もあるのよちゃんと。

石田: そう。その壁を越えると……(笑)。あと、アポロを半分にわけて、残り半分は親世代と子世代にわけて、親世代が食べられるのを目の当たりにした子供たちが……(笑)。

東村: だからもう同じなんですよ! できているんですよ、『進撃の巨人』が。漫画に描かなかっただけで(笑)。

石田: 完璧な構想やったんだけど(笑)。

──ちなみに、石田さんが漫画にした作品(笑)に、東村さんはどんな感想を持たれていましたか?

東村: 雑誌の中で異質だなと思っていました。「ぶ〜け」のなかで、“変わった漫画を描く人だな、これ少女漫画なのかな?”と思いながら大学生の時に読んでいました。実際に会って、作品のままの人だったから、安心感がありました。石田さんは、なぜ「ぶ〜け」に投稿したの?

石田: 少女漫画を読んだことがなかったんだけど、漫画描いていたら、「せっかくだし投稿してみたら?」と姉と父に言われまして。ちょっとその気になったけど、少年漫画は絶対ムリな気がして、少女漫画はパターンをつかんだらいけるんじゃないかと、なぜか思ってしまい……。そこで少女漫画の16ページくらいの作品をいっぱい読んで、「なんとなくこんな感じ?」と思って、いちばん少女漫画っぽくなさそうな「ぶ〜け」に送りました。逃げの姿勢(笑)。

東村: すぐデビューしたんだっけ?

石田: いや、そのときはまだ4席5席くらいで。それでも調子に乗って。“いけるんじゃね?”ってなって。

東村: 思い出した! 絵がうまくもなんともない、ただのクラスの友達に、背景とか描かせてるんですよ。で、ローマ字で「なんとかちゃんありがとー!」とか描いてあって……。

石田: うわーー!!!

東村: 完全に、放課後ノリで描いてたよね、あなた。

──石田さんの投稿作品の編集部からの評価はどうだったんですか?

石田: ≪会話にセンスがある。キャラにセンスがある≫以上でした。

東村: でも、石田さんの漫画って、関西人なのに関西弁じゃないですよね。私はそれがすごく好き。じつは。関西人の人って、漫画にけっこう関西弁出してくるじゃん。あれってこっちが置いてきぼり感をくらうのですけど、石田さんの作品にはそれがなくって。本人に会ったときに関西人だったからすごくびっくりしたんだけど。

石田: 関西弁は口語ではあるけど文語じゃない。だから、文語にすると嘘くさくなる。そのノリはぜったい再現できない。再現しちゃうととっても読みにくい。だから、向かない。エセ関西人キャラになっちゃうの。

東村: あと、締切を手伝いに行ったときに衝撃だったのが、アシスタントのほうがなぜかえらいのです。いちばん笑ったのが、アシスタントさんが貼ったトーンを直してと先生が頼むじゃないですか。そうしたらアシスタントさんが、「どしたん?」と。そして直さないと。で、先生が自分で貼り直していました。

──背景だったり、トーンだったりをアシスタントさんに任せるのがおふたりの特徴的だと思いました。他の少女漫画家の方より指定をがっつりしないというか。

石田: 私はもう、任さざるを得ない状況なので。あと、任せられる人が数人いるので。私、最終的に締切直前になると、あるアシさんのことを“先生”って呼んでますから(笑)。

東村: なんか、石田さんのとこは、攻めと逃げでいうと逃げの作業なんですけど、うちは攻めの作業なんで(笑)、アシスタントの世界とか技をぶつけてみな? みたいな感じで任せています。時間に余裕があるから(笑)。

石田: すみません(笑)。

東村: 今はどんな風に指示してるの?

石田: 「ここ花!」「ここはホワンとさせて!」みたいな(笑)。

東村: ちょっと真面目な話をすると、最近、女の人も少年漫画とかを描くようになってますよね。うちのアシさんも少女漫画に投稿している人が少なくなって、みんな男性漫画の方にいってるんだけど、私は少女漫画の方が絶対上だと思っているの。要するに、描き込みすぎだと思うんですよ、今の青年誌って。少女漫画って、描き込んでいないけど感動も大きいじゃないですか。漫画って、セリフと構図だから、背景なんていらないんですよ。だから、背景が入りすぎてるとセリフに意識がいかない。私たちの白さには意味があるんだと。

石田: 通常会話のうしろまでびっちり背景入っているのはちがうよなと、私も思う。

東村: もうね、私たちの感覚でいえば、電話を細かく描きこまなくても、腕まげて耳に当ててれば電話しているし、背景に1本線をいれれば壁と天井という背景。少女漫画って、そういう記号で見せられるところは見せて、ほかで語るスタイル。 私の感覚だと、描けば描くほど、どんどんどんどん画面が弱まっていく。例えば山があって空があって、山も空もトーン貼るからさ、もうただのグレーになってしまう。

石田: あーわかる。

──石田さんの漫画は、実際は時間がないゆえの処理ってこともあるかもしれないですけど、トーンで語ってるなーと読んでいて思うこと多々ありますよ。

『カカフカカ』

“トーンで語る”石田氏の作品。なかでも名シーンなのはこちら。

石田: トーンで語る(笑)。

東村: ものすごく良い言い方(笑)。でも、それこそ記号で語るだよ!

石田: 「少女漫画ありがとう」と思う。表現が追いつかない描写はトーンが請け負ってくれる。

東村: 無数にあるトーンから選んで貼っているわけだから、それも表現だわな、確かに。

──現場で石田さんが「リリ」って呼んでいるトーンあるじゃないですか、あれは「リリカル」の略ですか?

石田: そうです、「リリカル」。そういう印象のトーンを自分で勝手に分類して名づけました。

東村: それ、うちでは「エビ」って言ってる。昔、『きせかえユカちゃん』描いてるときに、イセエビをブワーッとユカちゃんが食べているシーンで、締切まで時間がなくて「そのイセエビになんか貼って!」と言ったら、誰かがそのトーン貼ったらすごいイセエビ感が出て。

石田: それ私も覚えていて、食べ物描写のときに貼ったらほんとに良かった。

東村: あと、石田さんのとこ、なんかトーンをけちってつなぐときの言い方を「バチスタ」と呼んでいて、うちでもそう言うようになった。「ちょっとそこバチっといて」みたいな。

石田: トーンの名づけは漫画家あるあるだね。

東村: 石田先生は、『海月姫』の”尼〜ず”という言葉を考えた人だからね。センスあるんだよ。名づけることに。投稿作の評価と一緒だね。

『海月姫』

“尼〜ず”は言わずもがなですが『海月姫』で生まれた、男を必要としない人生を邁進するオタク女子のことを指します。

【後編に続く>>】

この記事は2015.07.13Kiss公式サイトにて掲載されたものです。

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