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2026.10.13

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「俺の彼女やらない?」名門ホテル御曹司×崖っぷち就活生のシンデレララブ『いつか、お伽話になるまで』

ヒールをへし折る就活生

黒いリクルートスーツ姿の人を街で見かけるとつい目で追ってしまいます。不安と緊張と生命力がないまぜになった独特の雰囲気が全身から漂っていて、どうかこの人にいい人生が待っていますようにと思わずにいられないし、昔の自分を思い出して胸がざわつきます。採用担当者以上に自分で自分を値踏みして、周りと比べて、すごくしんどい気持ちになるんですよね。
つらいよね。『いつか、お伽話になるまで』のヒロイン“コメ”は大学3年生。就活の真っ最中で、全然うまくいっていません。
これこれ! 「私には何もない」って何度も思った! でもコメは「死にて〜」な日でもバイトを欠勤しないし、友人が第一志望のインターンに受かれば笑顔で「おめでとう!」を言えるし、強くていい子なんですよ。彼女を選ばないなんて、人事は見る目がないなあ。

で、そんなコメに、とてつもないオファーが舞い込みます。
彼は超名門ホテルの御曹司・“伶央”。「死にて〜」と思ってもくじけずに働いていたコメが強盗に襲われかけたところを助けてくれたんです。コメは、武器を持った強盗相手に力では負けていましたが、メンタルでは勝っていたと思います。
やっと合格したインターン先が超絶ブラック企業で心が折れそうなときも、自分でヒールをへし折ったりしていましたし。そう、やっぱり彼女は強くていい子なんですよ。伶央は見る目がある。
そうだそうだ! この先の人生で不採用通知をもらったりコンペに落ちたりしたときに読み返したいページ!

私を舞踏会に連れて行って

御曹司の伶央は、自分が主催する舞踏会でパートナーをつとめる「彼女役」を探していました。その舞踏会は、ちょっと仲間内で楽しむようなパーティーではなく、世界中からセレブリティが集まり全国ネットのマスコミが取材したがる社交の場。
世界的ホテルの御曹司の俺様キラキラ人生なんて、株式会社講談社のインターン選考にアッサリ落ちるような自分とは無関係……と思いつつも、「舞踏会」はコメの胸に響く言葉でした。お伽話の世界ですもんね。

『いつか、お伽話になるまで』は、伶央のゴージャスな世界とコメの就活ライフとの間を行ったり来たりするラブコメです。コメは「ラッキー! 就活なんてとっととやめて御曹司の彼女になるぞ〜!」なんて考えなくて、自分なりに必死に自分の人生を考えて、がんばるんです。不安なことばかりだし、「これはマズいな」とうすうす気づいても、不安でしょうがないからとにかくがんばる。そして彼女が自分を見失いそうなタイミングに、伶央は必ずかけつけます。
金言の宝庫ですよ、ほんと。本作は御曹司がババーンとゴージャスに現れる場面がたくさんあります。個人的ベストは「倒産したインターン先から放り出されたコメの頭上にヘリで登場する伶央」です。ぶっ飛んでてよかったなあ……。

コメはいろいろな経験をして、御曹司の規格外な行動や言葉にも心を動かされ、ついに舞踏会へ行くことを決めます。
伶央が選んだきれいな靴をはいて、ドレスも伶央が見立てて、ていねいにお化粧をして、ダンスも練習して……夢いっぱい。

ところで、お伽話に出てくる夢いっぱいの舞踏会は、開催タイミングが物語のフィナーレならめでたしめでたし、お話の前半ならド派手なハプニングがお約束です。伶央の舞踏会は本作の第1巻のエピソードなので……、
世界中の御曹司とご令嬢が集まる舞踏会で可憐に踊るコメと、彼女を追い出したい何者かと、コメをかばう伶央! そして愛憎渦巻くプリンセス物語に突入……と思いきや、コメは舞踏会のあとも就活とアルバイトを続けるんです。あくまで自分はマスコミ対策で選ばれた彼女役だと思っているようです。それに、彼女のプロフィールによると「もらってうれしいもの」は、ジュエリーでもお金でもなく「内定」なんです。で、舞踏会の報道を見た面接官に「(御曹司の彼女で)将来安泰なのにインターン?」なんてイヤミを言われたり。切ない!

苦しい毎日を送っていたヒロインのもとに、ある日突然王子様が現れて、その王子様がヒロインをたちまちプリンセスにしてくれる……コメのお伽話は華やかですがそういう物語ではないようです。
「夢もやりたいこともない、私には何もない」と思っていたコメが、どんどん魅力的な人に成長していくので、毎話うれしくなりますよ。おすすめです。

レビュアー

花森リド

ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。

X(旧twitter):@LidoHanamori

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