身分違いの大正婚姻譚
私の妻になればいい
大正から昭和初期を描いた女性コミックは多い。近年は、その時代の雰囲気を色濃く残しつつファンタジーや転生譚とハイブリッドした作品も派生して、賑やかになってきた気がする。そのなかで『一途と純情 ~大正宵待恋々譚~』は繊細なタッチで、行き場を失った娘を救う男という“王道”をゆく展開。そんな身分違いの婚姻という“王道”の作品ではあるのだが、同時にとても慎ましいエロティックさにも溢れている。80年代の「BE・LOVE」に掲載されていた作品群に通じるところもあって、あの時代にドキドキしながら読んでいた女性漫画ファンに強く推したい。例えば、こんなシーン。
本作は女性漫画として、思いが「通じる/通じない」という展開もきめ細かいのだが、大人向けの女性漫画として「果てる/果てない」までの展開がとても丁寧に描かれている。たとえば二人が知り合うきっかけとなる琥珀糖。砂糖と寒天からできたこの透明な和菓子は、まわりはカリカリとしているが、歯を立てれば柔らかな寒天ゼリーが粒となり、ほのかな甘味を伴って口に広がる。そんな琥珀糖が何を意味しているのか? 作中の説明では、この琥珀糖には胡桃が入っているとあるが、その胡桃とはなにを象徴しているのか? そんなことを考えるとドキドキする。
秘密の味は砂糖のように甘く
一方の月子にも、栄寿に話せていないことがある。彼女がまだ少女だった頃、結婚を約束した四歳下の織部琥珀という少年の存在だ。病気がちな母のため好物の和菓子をよく買いに来て、月子が練習で作った琥珀糖を一緒に食べ、その後、母が死んで姿を消してしまった少年。月子の心の中には、ずっと琥珀少年が存在していたのだった。
栄寿の優しさに触れ、月子は心から彼に惹かれていく。もはや二人を隔てるものはない。そして月子は、栄寿から「店の復興は必ずさせるし、俺は貴方と離縁するつもりはない」と結婚指輪を差し出される。








