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2026.09.06

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陽キャで人気者の笹森くんがスカートをはいてきたワケって!? クラスメイトたちの青春物語

ジェンダーレス制服でスカートを選んだ男子

おしゃべりのラリーで繰り出す「なんで?」は、時と場合によっては、使い所がかなりむずかしいカードだと思う。よいタイミングで差し出せると互いが心を通わすきっかけになるかもしれないが、ちょっとズレると「なんでって言われても……」みたいな空気になる。

この「なんでって言われても……」の続きは、いくつか考えられる。「自分でもわからないんです」の場合も多々だろうし、「ナイショ」かもしれない。ものすごいデタラメが出てくることもある。もっとひどいときは「なぜ私がアナタにそれを教えなきゃいけないのか、質問したらなんでも無理やり返事をくれる生成AIと一生しゃべっていたほうがいいんじゃない?」もある(私はこれを言ったことはありませんが思ったことは二度ほどあります)。

個人と個人との対話で、なぜと問われた側には「なぜならば」と理由を説明する義務が発生するように思えるが、実際のところそんな義務はどこにも存在せず、なんなら「わかりません」を言う必要すらその人にはないと思う。

ということで、本稿で紹介する『笹森くんのスカート』に登場する高校生たちに、私は「なんで?」が言えない。おそらく彼らが胸の中で一生懸命考えている最中だったり、そもそも誰かに明かすためにその答えがあるわけではないからだ。

本作はそんな彼らの胸の内の嵐を描く。原作は、『恋とポテトと夏休み』などで知られる神戸遥真さんによる同名のYA小説だ。

物語は2学期の初日、“笹森くん”の「ある装い」から始まった。
笹森くんの通う高校では今年度からジェンダーレス制服が導入された。ジェンダーレスなので、女子生徒がスラックスをはくこともあれば、男子生徒がスカートをはくこともあるはずだが、後者はあまり見かけないからなのかインパクトが大きい。

「わかる」

笹森くんはしっかりと男性的な印象で、女性的なスカートとのコントラストがとても強い。で、彼のスカート姿は教室に波紋を呼ぶ。クラスメイトたちはチラッと見て何か言いたそうにするが言葉を飲み込む。「なんで?」のタイミングをはかりかねているのかもしれない。
本人に直接ではなく、周りで「笹森って、LGBTQ的な?」といった感じでウワサが飛び交う。“篠原くん”も、笹森くんのスカートが気になってしょうがない一人だった。何か大きな悩みがあって、笹森くんはスカートを選んだんじゃないか、でもそれって隠したままでも生活できることなんじゃないの? なんで急に?と。

ところが、だ。
「はいてみたかったから」、以上! 笹森くんのシンプルな回答にモヤモヤする篠原くん。というのも、篠原くんには隠しようのない「ある特徴」があり、それが彼にとって最大の悩みだったからだ。彼は人並み外れた汗っかきだった。そのせいで悲しい思いをしたこともある。高校生となった今、デオドラントには人一倍気を遣っていたが、悩みは全然解消しないままだった。

心と皮膚の内側にある悩みは、言わなければわからないだろうにと考える篠原くんは、誰の目にも明らかな「ものすごい汗っかき」に、彼がどれだけ苦しんでいるか、家族にもわかってもらえないでいた。

そんな篠原くんのことを、隣の席の“倉内さん”は、いつも「わかる」と言う。
倉内さんは別に汗ビショビショではないが、彼女の優しい心づかいは篠原くんの胸に響いたようで、以来ずっと倉内さんのことが気になっている。なのに、倉内さんがスカート男子の笹森くんのことを「ずっと気になってて」なんて言うのだ! ああ、陰キャな僕なんかより、やっぱりイケメンで人気者の笹森くんのほうが好きなんだ……と、うなだれるも、実はそうではない。
真面目で正義感の強い倉内さんが目を輝かせて連呼する「わかる」は、篠原くんのケースのようにいい方向に働くこともあれば、全然そうではないこともあることは、想像に難くない。そして篠原くんにもそれは察せられた。このあと予想通りのとても苦い出来事が待っているが、私が全然予想していなかった結末でもあった。

2学期の初日以降、笹森くんはずっとスカート男子で、そのまま学校生活は進んでいく。彼なりの着こなしも生まれてきたりして結構楽しそうだ。スカートのせいで何かが起こるわけでもないが(そりゃそうだ)、彼の姿を見たクラスメイトたちは、いろいろなことを考える。
“西原さん”のエピソードもとてもよかった。彼女もまた、自分の悩みを笹森くんのスカートに重ねる。
「当事者じゃないと話ができないなんてことはない」に100回くらいイエスを言いたい。個人と個人が関わるための指南書のようなマンガだ。

さて、笹森くんがスカートをはいて登校する理由について、クラスの誰かが彼に「なんで?」と尋ねたとき、笹森くんは「穿いてみたかったから。それ以外に理由って要る?」と答えた。本作の最後のエピソードを読むと、彼の回答のよさがよりビビッドに感じられるはずだ。笹森くんは何も嘘を言っていない。

レビュアー

花森リド

ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。

X(旧twitter):@LidoHanamori

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