PICK UP

2026.08.17

レビュー

New

セッションしたら広がる世界!! 女子高生プレイヤーのジャズ・ストーリー『カインズオブブルー!』

音楽を題材にした漫画において個人的に惹かれるポイントは、そこに人生が描かれていて、音楽のテクニックや知識に触れることができ、そして何より、“音が聴こえてくる”こと。『のだめカンタービレ』や『BECK』、『BLUE GIANT』といったタイトルが思い浮かびますが、これら名作たちに続いてほしい、期待の新作が登場です。

ジャズをモチーフに高校生の瑞々しい青春を描いた「青の物語」

本作の舞台は、著者の出身地でもある北海道・函館市。祖父の影響でジャズにハマった少女・いつみは、何年もひとり海に向かってトランペットを吹く日々を過ごしていました。
中3の夏、東京にあるジャズクラブへと足を運び、人生初のセッションを体験します。セッションとは、簡単に言えば複数の奏者による即興演奏。そこでの挫折と感動を胸に、高校入学後にひとりでジャズ部を立ち上げたいつみは、セッションするためにも部員探しに奔走。そうして出会った仲間たちと共に紡いでいく音、そして青春というかけがえのない時間を描いていくジャズ×青春漫画です。

小さな漁村で、ひとり黙々とトランペットを吹き続けてきた少女。親代わりだった祖父を亡くし、幼い妹のため大学進学を諦めた姉と、そんな姉を見守る高校教師の親友。過去の失敗から音楽と決別してしまった元天才ピアニストの少年。本作には様々な背景をもつ人物たちが登場します。

タイトルの「カインズオブブルー!」はモダン・ジャズの帝王マイルス・デイヴィスが1959年に発表した伝説的アルバム『Kind of Blue(カインド・オブ・ブルー)』から取られているかと思いますが、「カインド」ではなく「カインズ」である点に注目。いつみや彼女が出会う仲間たちそれぞれの群像劇であり、さらには青、すなわち青春の物語であることを示しているように思えて、その洒落っ気のあるセンスにも心惹かれます。

トランペット少女、念願の初セッションは思わぬ結果に……!?

本作における最初のヤマ場ともいえるのが、いつみが人生初セッションを体験するシーン。北海道の田舎で、まわりにジャズをやる人などおらず、たったひとりでトランペットを吹き続けてきた彼女にとって、誰かと即興で音を交わすセッションは憧れそのものでした。

約10年間ほぼ毎日練習してきたいつみ。セッション未経験ながら、ジャズスタンダード200曲が掲載されたセッション用の楽曲集を見て「全部吹けます」と告げ、東京のジャズ好きもあ然。
心配そうな姉が見守り、ジャズ好きたちが品定めするなかで鳴らす、緊張のファーストブレス!
だてに10年練習してません。玄人も唸らせる見事な演奏に順調な出だし……と思いきや、当の本人は初セッションの興奮より、戸惑いが勝る事態に。
テンポが速くなってしまったうえ、ソロプレイを何分も続けた結果、周囲との息も合わずに演奏そのものが止まりかけてしまいます。

バッティングセンターで無双していた猛スイングのバッターが、いざ試合で投手と相対した時に、まったく打てない、そんな状況と近いかも。バンドセッションならメンバーと、野球なら投手との呼吸や駆け引きが大事。人間同士の“プレイ”は、ひとりよがりではうまくいかないもの。

この絶体絶命な大ピンチを救ったのは、飛び入りしたスゴ腕のピアニストでした。
一瞬で空気を変える彼の音に、いつみも反応。
圧巻のソロから混乱に陥るバンド演奏、そして飛び入り参加者とこれに応えたいつみによる化学反応……まさにセッションの醍醐味ともいえる生々しいミュージシャン同士のやりとりが描かれるいつみの初セッションは、読んでいるこちらも緊張してしまうほど、ヒリヒリする名場面です。
周囲と合わなかったこと、合わせられなかったこと。そして予期せぬ出来事にも相手の意図をくみ取って反応できたこと。セッションの難しさと楽しさをいっぺんに味わってしまったいつみは、こうしてさらにジャズ、セッションへとのめり込んでいきます。

トランペットがあればどこにでもいける――そう笑顔で語るいつみ。世界中どこだっていけるのと同時に、彼女の世界そのものも、ジャズとトランペットによって広がっていくことを予感させる、エモーショナルな見開きに胸が熱くなります。

魅力倍増!? ジャズの名曲を聴けば作品世界がより豊かに響く

本作はジャズを知らなくても楽しめる漫画です。ジャズの知識を問う作品でもなければ、知識がなければ楽しめない作品でもない。実際、超有名曲くらいしかジャズを知らない私でも、1巻を楽しく読むことができました。

音楽を追い続ける登場人物たちの息遣いから生き様までを瑞々しく描いていて、そこには自然なかたちで、音楽が鳴っている。いつみのトランペットや、初セッション時のバタバタしてしまうバンドサウンド、飛び入り参加の圧の強いピアノの音も、ページをめくれば聴こえてくるのです。

ただ、さらに踏み込んで、より深く本作の魅力を味わいたい人は、ぜひジャズの名曲たちを聴いたうえで、改めて読み直すことをオススメします。作中にはたびたびジャズの名曲が登場しますが、今はYouTubeや音楽サブスク配信などで気軽に世界中の音楽が楽しめる便利な時代。実際の楽曲を聴いて読むと、演奏シーンでの臨場感や、登場人物たちが語る楽曲の魅力を、より立体的なかたちで捉えることができます。

個人的には、一周目はまっさらな状態で、二周目に楽曲を聴いてから読むスタイルがオススメ。漫画の描写から楽曲や演奏の雰囲気をイメージして、そのあとで実際の曲を聴き、自分のイメージとのズレや合致を楽しむ。ジャズの名曲も知ることができるので、いつみに比べたら些細なことかもしれませんが、本作を通じて自分自身の世界も広がっていく、そんな可能性を感じるのです。

確かなテクニックはあるが、セッションは初心者。そんないつみが、どんな仲間たちと出会い、どんな音を鳴らしていくのか。彼女のセッションが紡ぐ青春の日々を存分に楽しみたいと思います!

レビュアー

ほしのん

中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。

X(旧twitter):@hoshino2009

おすすめの記事

試し読み

“9本の指”で世界を変える天才ピアニスト。傷だらけの2人で拓く、再生と栄光のドラマ『ラブソング』

  • 家族
  • 青春
  • 音楽

レビュー

【DTMer×VTuber】いつかの夜を明けさせるのは私たち! バンド青春物語『あさやけリフレイン』

  • 青春
  • 友情
  • 嶋津善之

レビュー

凡人×天才少女×宇宙人? バイオリンを中心に駆け抜ける!『宙飛ぶバイオリン』 

  • 青春
  • 学園
  • 花森リド

最新情報を受け取る

講談社製品の情報をSNSでも発信中

コミックの最新情報をGET

書籍の最新情報をGET