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2026.08.15

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恋愛ベンチ女子×チャラくてキケンなモテ男。2人のへたくそな初恋『バニラとオレンジ』

付き合うならバニラアイスを選ぶ人がいい

フットワークの重い人と軽すぎる人が、一緒に何かをすると、足並みがそろわなくて全然うまくいかないんじゃ……と心配しても、案外うまくいったりするんですよね。たぶんあれは「お互いを見る」ことで、ペースが自然と合うのだと思います。ちょっとズレても、また合わせようとする気持ちさえあれば、うまくいくはず。

『バニラとオレンジ』の“珂生(かい)”は、ドラマや映画のような純愛にあこがれる高校1年生。いつか“運命みたいな人”に出会えると思って16年、恋愛映画は山ほど見てきたけれど、まだ恋の気配はみじんもありません。つまり“恋のベンチ”を温め続けて“出場(恋!)”の予感が全然ない「恋愛ベンチ女子」で、恋多き姉に「そんなに恋愛が好きなら現実で彼氏作ればいいのに」なんて言われる始末。お姉ちゃんの指摘はごもっともですが、珂生としては失敗したくないし、大切にしたいわけです。ハズレなし、鉄板の恋を大切に育てたい!

でも、珂生が出会った“運命みたいな人”は、珂生とは正反対の、ハズレも不確定要素も山ほどの男で………。
同じ学年で、同じ図書委員の“梓(あずま)”。珂生が梓と会ったのはこれが3度目でした。

最初の印象は最悪。ピアスじゃらじゃらで髪はオレンジ色、珂生が愛する恋愛映画には出てこなさそうなビジュアル。そして他にもイヤなところがあって、珂生の理想とは真逆。
初対面の日、珂生のバイト先のアイスクリーム屋さんに現れた梓は、珂生の目の前で彼女にフラれ、それなのにケロッとアイスの注文を続け、選んだ味は「味噌ラーメン味」。ほんの数分前は、珂生がおすすめしたバニラ(安全&安心な鉄板フレーバー!)を選ぼうとしていたのに!

ビジュアルも、一貫性に欠いた言動も、恋をライトに扱っている感じも、とにかく全部が無理。珂生は、いつもバニラを選ぶような人が安心できるのに。
図書委員の仕事で思わず体が急接近したときも、映画よりもうんとダサい状況で、これも珂生の理想とはまったく違っていて、もう記憶から消したい! せっかく髪留めもかわいかったのにね。

梓はとにかくモテる男でした。モテるし、恋の新陳代謝が激しい。
誰もいない教室でこんなことをして、その数分後にはフラれています。付き合ってはフラれ、付き合ってはフラれを週イチくらいのペースで繰り返しているのかも。

ところで、珂生のいう「大切」な恋のなかに、不安や興奮は含まれていません。本作が連載されているのは「デザート」です。デザート読者ならば、既におわかりかと思いますが、不安や興奮のない恋って、ないに等しいんですよね。

本当の愛ってみんな知ってるものじゃないの?

いつ会ってもキケンな香りのする梓は、「付き合ってみる?」なんてコトバも、そしてキスも、ペースがとにかく速い。珂生にも何かと甘いことをささやきます。珂生が想像していた順番とは全部ちがって、戸惑うことばかり。
おもしろいくらい珂生と梓のペースがちがうんですよ。でね、正反対の2人が言うどちらの言葉も「そうだよね」って思っちゃう。
キスをするなら本当に好きな人としたいのも、「本当の愛」を言葉で言い表せる人がこの世に存在するのか怪しいのも、どちらも正しい気がします。
失敗を恐れて安定のバニラを選び続けて、アイスクリームのフレーバーのバリエーションを知らない珂生と、とりあえず味噌ラーメン味を選んでみる梓。ところで、珂生は、いつも口がちょっと開いてるんです。困ったなあと思ったり新しいことに戸惑うと、彼女の口元はハワワ〜と開くようで、反対に1人で「こうじゃなきゃ」と思っているときはキュッと結ばれています。
いろいろあって(本当にいろいろあるんですよ!)、付き合ってはいないけれどデートをすることになった日も、珂生は梓の顔を見るとぽかんと口が開いてしまって、デートについて1人で考えると口が閉じています。ちなみに珂生が考えたデート計画はみっちみちに細かくて、梓のデートはとても自由。

自由だけど、梓は「おかいまなし」でもなさそう。珂生の希望は彼なりにきちんと大切にしてくれます。
恋愛ベンチ女子が3日間リサーチして作成した分刻みのデート計画はキレイに無視して、その恋愛ベンチ女子が本当に憧れていたことには、合わせるんです。きっと梓も、珂生の希望を「いいな」と思ったんでしょうね。

そういえば珂生と梓が初めて会ったアイス屋さんでも、梓は珂生のおすすめするバニラを選ぼうとしていました。1巻を通しで読んだあとに、あのアイスの場面を読み返すと、彼なりの優しさや興味の揺れ動きが、よりビビッドにわかるはずです。

恋愛マンガ史上でたぶん上位20%には入るくらい慎重で頭でっかちで不器用な珂生は、少しずつ初恋を育てていきます。展開が早かったり遅かったり、計画通りには何も進みません。みっともない失敗をいくつも重ねていきます。そして恋愛マンガの定番ルートとも違うんです。
味噌ラーメン味も実はおいしかったようですし、彼が“運命みたいな人”だといいなあ。

レビュアー

花森リド

ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。

X(旧twitter):@LidoHanamori

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