いつも違う女を連れ、いろんな女を泣かせ、服で隠された場所にタトゥーがあるなんて噂を、いろんな人が知っているような男。そんな男には「クズ」の称号がふさわしく、しかもだいたい優しいです。
ほら~~~~~~! よくぞ描いてくれました。この境界線のあいまいさと、フヨフヨした優しさが超リアル!
『アメーリアの好奇的ロマンス』は、そんな人のことを好きになってしまうヒロイン“あめり”の気持ちもリアル。特に目がすごくいいんですよ。
「ああ好きだ」と心が動いたときの潤んだ目と、誰かがつけたキスマークを見つけた直後の顔。どちらにもゾクゾクする。でも、あめりはそんなつもりじゃなかったんです。本当は別の目的があったはずなのに、今ではすっかり惑わされています。
あめりは優等生な女の子。高校生活をそつなく送っています。
女の子の噂が絶えない“白水先輩”みたいな人とは無縁なはずでした。友達が白水先輩のことを「エロ」と思っているとき、彼女が思い浮かべていたのは「悪役キャラ」のこと。
あめりには誰にも言っていない秘密がありました。
それは「異世界恋愛小説」を書いてネットに投稿すること。“アメーリア”というペンネームで「悪役令嬢と金色の王子」という小説を書いています。でも、人気ランキングの上位にはなかなか入れなくて悩み中。ところで小説の感想コメントを読むときのあめりの目、すごく魅力的だと思いませんか。キラキラ! 彼女が何かを求めるときの顔が私はとても好きです。
「小説に刺激が欲しい」と言われても、何を書けば……と悩んでいたある日、あめりは保健室で白水先輩の情事を目撃してしまいます。見ちゃいけないと思いつつもカーテンで隔てられたベッドから目が離せない。そして……!
バレてる!! つらい! しかも小説アプリが立ち上がっているスマホを見られて、アメーリアという名前までバレる始末。さらに目の前で小説を読まれて「恋愛小説? 手を繋いで終わり? 退屈だね」なんて容赦なしの感想。地獄。そりゃ保健室で女の子とあんなことしてた人には退屈でしょうね……。でも?
退屈と言った割には夢中で読んでくれて、こんな感想をくれたり。
この保健室での出来事以降、白水先輩は何かと話しかけてくるように。
優等生で、恋人なんていたことなくて、刺激をまだ知らないから小説には書けない。
白水先輩は、あめりにどんな刺激をくれるのでしょうか。それはちょっとした事故から始まります。でもその一瞬の出来事があめりを大きく動かします。
今まで書けなかったような小説が書ける……! 白水先輩が協力してくれたら、もっとすごい異世界恋愛小説が書ける。
今まで想像したこともなかった刺激と感情を、あめりは身をもって知っていきます。そして白水先輩に触れるたびに、アメーリアの異世界恋愛小説は魅力を増してファンがどんどん増えるように。白水先輩との刺激を知れば知るほど小説のランキングは上がっていきます。きっとあめりの頭の中はドーパミンでひたひたになっているはず。これは何もかもが止まらないだろうなあ……。
「悪い男」と噂されて、実際に大勢の女の子の影がちらつく男が、自分の大切な小説の唯一の理解者だったら、どうすればいいんでしょう。しかもその男が見せてくれる景色や刺激は極上で、それこそあめりが夢見る異世界のよう。もう、本当に本当に極上なんです。この際クズでもいいかなって思っちゃうくらい。
あめりも、白水先輩のまわりに大勢いる「優しくしてほしそうな人」なの? 白水先輩はどういうつもりなの!? やっぱりクズなの? とにかく一日も早く2巻の1ページ目が見たいです。
レビュアー
花森リド
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
X(旧twitter):@LidoHanamori