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2024.11.22

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「俺が一緒に死んであげる」愛の重いクズ男子×情の深い社畜女子の劇薬ラブコメ

だからそれまで一緒に生きようよ

何もかもがうまくいかない時、不謹慎だけど「もう死ぬかぁ」と弱音が口をつくときがある。もちろん本当に死ぬ気はない。とにかく「今」を変える何かが流れ星みたいに飛び込んできてくれたら、また生きていこうと思えるって意味だ。

『ヒモクズ花くんは死にたがり』の場合、“楓”のもとに飛び込んできたのはヘビー級の愛を抱えた黒猫みたいな男の子。
光のない目で「一緒に死んであげる」「約束」なんてサラッと口にする。
小指には、血のしたたる指切りみたいな噛み傷。ああ、一体どうしてこうなった?

社会人2年目の楓がある朝目を覚ますと、横にいたのは知らない男の子。
昨夜、浴びるように酒を飲んだ楓は、声をかけてきた男の子をそのまま家に連れてきた。そして全然覚えてないけれど、「1週間泊めてあげる」と約束したらしい。なりゆきとはいえ、なんて危なっかしい……。ほら、だからこんなことになる。
ちょっと自暴自棄に見える楓の態度にはわけがある。
楓は社会人2年目の限界社畜。仕事は忙しい上に理不尽なことも多い。愛想が良く我慢強い楓は、仕事を押し付けられることも少なくない。
昨日は、そんな楓をいつもそばで癒やしてくれた最愛の家族・黒猫の花子が死んでしまった「最悪の日」だったのだ。

だからといって、知らない男の子を部屋に上げたのは流石にまずかっただろうか。帰ったら変な人のたまり場になっているかも……。そんな楓の予想を裏切り、彼女を迎えたのはピカピカの部屋に美味しい料理。
この男子、優しくて身なりが整っていて、家事もできるのに帰る家はないという。どこか黒猫みたいな雰囲気があって、猫の花子と間違えて連れてこられたから「花くん」でいいよ、と本名も教えてくれない。手を出してはこないけど、わりと辛辣なことも言う。

そんな掴みどころのない花くんとの共同生活は、意外にも驚くほどに快適だ。いつも塩対応なのに、しんどいときはそばにいてくれるところなんか、猫の花子とそっくり。猫と男の子は違うけど、やっぱり癒やされるしあったかい……。

約束の1週間が過ぎ、別れの日はあっという間にやってきた。
少しの名残惜しさを感じていた楓は、ある出来事をきっかけに、想像もしていなかった「本当の」花くんを知ることに!
小指の傷は、今度「楓が」死にたくなったときのための2人の約束。怖くて仕方ないのに目が離せない。何ひとつ思い通りにならない恋が始まる。

ペットなんて無理!

このマンガ、なんといっても花くんのビジュアルがたまらない。
黒髪と光の入らない黒い瞳、左目の下に2つ並んだ泣きぼくろに、口元のほくろ、左耳に並んだピアス。セクシーなパーツとくるくる変わる表情があいまって、絵に描いたような「沼」である。

なのに、冒頭の寝顔や、無防備な素をのぞかせるシーンではそれらが隠れているのもなんだかミステリアス。
だから一見本気じゃなさそうな「これが好きってことかな」も「いやいや結構本気なのでは?」と深読みしたくなる。

だって、本気じゃないなら楓が死にそうになった時に見せるこの顔はなに?
ちなみに、楓のピンチに花くんがこうもタイミングよく駆けつけられるのには、楓もドン引きの怖い理由があるのだけど、なんとなく受け入れてしまうのだ。怖いなあ。

よくわからない人、でも、一緒にいると寂しくなかった。それは花くんも同じようで……。
1週間限定の関係は「楓さんがほんとに死にたいって思うまで」延長することに。しかし「ペット扱い」なんて、ほんとにペットになるつもりの男は言わないんだよね……。

ラブコメ? いや、劇薬です

重い愛を抱えていそうではあるけれど、花くんの楓に対する態度がベタベタに甘くないのがまたいい。
優しいけれど自分のことは明かさず、一線を引かれているようで寂しくなったタイミングでこうして距離をバグらせてくるのが罪だなあ……。
なんて思っていた私がぶん殴られたのが、3話のラストだ。2人の「これまで」をうっすらと見せたあとに、ラスト1ページでグッと心をえぐってくる。
本作は「劇薬ラブコメ」とのことだけど、今のところはほぼ「劇薬」だ。心して手に取ってほしい。

レビュアー

中野亜希

ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。

X(旧twitter):@752019

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