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2026.05.27

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こんなに美味しそうに食べる人見たことない! 校閲女史の豪快グルメ無双!!『全力めし』

読むと“お腹が空いちゃう”漫画です

「美味しい」「美味しそう」をどう表現するか。グルメを題材にしたエンタメ作品で、もっとも大事な部分です。視聴者あるいは読者は、その料理に触れることすらできません。「まずはひと口食べてみて」という手っ取り早い手段が使えない状況で、美味しいということをどうやって伝えるのか。

その課題を大胆にクリアしたのが、本作です。

主人公は、出版社で校閲の仕事をする南雲(なぐも)アリサ。校閲については、かつてテレビドラマにもなりましたし、その仕事内容についても、世の中にだいぶ浸透しているかと思います。漫画や書籍などにおける誤字脱字といった基本的なミスから、記載内容が事実かどうか、あるいは言葉の意味の確認、登場人物の設定や状況に関する矛盾の有無など、チェックする範囲は多岐にわたります。

そんな、とてつもない集中力を要する仕事に携わるアリサにとって、食事は気分転換に最高のツール。彼女の食事シーンを読んでいるうちに、なんだか自分もご飯を食べたくなる……本作にはそんなマジックが宿っているのです。

「美味しい」の音が聞こえるグルメコメディ

読者の食欲をそそる、その秘密はアリサの食べっぷり。まずはこのチャーシュー麺を食べるシーンをご覧ください。
多くのグルメ漫画とは一線を画す、食事描写に圧倒されます。料理の詳細など一切語らず。麺の硬さや太さ、スープの香りや味わい、チャーシューはどんな食感なのか。アリサの口から、そういった食リポ的なものはまったく発信されません。その代わりに、料理を箸でつまみ、口に運んで咀嚼する、ASMR的な音がひたすらに表現されていく。

料理の味や香りを事細かく、あるいはドラマチックに伝えたり、キッチンで手際よく調理するシェフたちの様を描いたりと、「美味しい料理」の表現方法はいくつかありますが、本作は、「ただひたすら夢中になって食べ続ける様」を描写することで料理の美味しさを届けてくれます。

先日観た朝のバラエティ番組で、大食いタレントとして活躍する方がラーメンを食べていたのですが、その食べっぷりが凄まじく、めちゃくちゃ美味しそうに見えたんです。豪快に麺をすするその画が、美しいとすら思えてくるほど、ラーメン自体も輝いて映っている。

本作が描く食事シーンも、これと同じように「食に心奪われ、夢中で食べる」ことの美しさと、この表現がいかに見る者・読む者の食欲を刺激するのかということが詰まっているように感じます。説明なんていらない。料理も、食べる人も、どちらも魅力的に見えてくる、まさにマジック。

別のシーンで、アリサはカレーを食べています。
スプーンでカレーとライスをすくい、口に運んで咀嚼する。ラーメンに続いて、カレーも食べたくなりますね……。そして、〆のシーンにも注目。
熱いもの、辛いものを食べ終わった後、最後にお冷をイッキにゴクゴク飲み干す。まるで自分の記憶を見ているのかと思うほどに思い当たるフシがある。気づけば私はアリサと一心同体。アリサを通じて、自分が食事をしているような気持ちになるのです。

お仕事漫画としての切り口にもぬかりなし!

食べることが大好きなアリサは、校閲の仕事中に出てきた漫画や書籍のフレーズに食欲をかき立てられ、導かれるように食事へと出かけていきます。たとえば、ある夏の日、さっぱりしたものを食べようとランチは冷やし中華に決めたものの、担当書籍に出てきた「夏の暑い日にしか味わえないカレーの景色があるんだよ」というセリフが頭から離れなくなり、冷やし中華からカレーへとメニューを変えることも。

また、ある書籍のチェック中には、こんな描写も登場。
もし自分だったら「え、嘘でしょ……」と絶句しそうなページです。校閲者としては、ここに書かれた円周率が間違っていないか、数字を一桁ずつ確認する作業をしなければなりません。なんとなく「こういう仕事だよね」と理解してはいるものの、実際に直面する案件の幅広さや、その困難さに校閲という仕事への関心も高まるという副産物も。ちなみに、本作にこのページが登場しているということは、本作が発売される過程においても、講談社校閲部の人が円周率と対峙した、ということになるのかもしれません。

仕事面での転機も訪れるアリサが、この先一体どんなメニューと相対するのか。仕事や人生と切っても切り離せない、まさに生きる糧ともいえるアリサの全力めしを、お腹いっぱい味わいたいと思います。

レビュアー

ほしのん

中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。

X(旧twitter):@hoshino2009

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