『裏ズーキーパー犬飼』の“犬飼さん”には、この人いったい何者なのだろうかと怪しむ余地を、こっちに1ミリも与えない勢いがある。いや、怪しいんですけどね、怪しいなりに筋が通っており、周囲もハッピーだし、まあいいか……みたいな気持ちになる。
犬飼さんは動物園にいる。
営業職のようなスーツ姿だが、ついさっきまで犬飼さんはヤギと本気でぶつかり合っていた。そして動物園の経営方針にも助言を欠かさない。「動物園は動物たちが王様」、いい言葉だ。犬飼さんは「動物ファースト」だから、経費削減のためにヤギの牧草のランクを落とすくらいなら人件費を削ろうぜ、というスタンスだ。つまり人間の優先度は結構低い。
動物園での立場は不明で、そもそも彼女の雇用形態だって誰も知らない。ひょっとしたら雇用されてない説すらある。そんな謎と無秩序を背負った犬飼さんのおかげで動物園の秩序は保たれている。そして新人飼育員の“玉村”は、犬飼さんの正体が気になってしょうがない。まともな反応といえる。
玉村は犬飼さんの正体を知るべく彼女の様子を観察するが……?
ミーアキャットのお部屋を掃除中、犬飼さんはミーアキャットの“ミアねーさん”の尻尾がちぎれているのをすぐさま発見。痛々しいが、ミアねーさんはケロッとしているし、なんともかわいいお顔をしている。本作は動物の絵がとてもかわいい。
見張りを頑張りすぎているミアねーさんを気遣う犬飼さんは……?
ミアねーさんを休ませるために自分が代役をすることに。そんなバカな……というなかれ、ミーアキャットたちは安心してゴハンを食べたりくつろいだりしている! なお、ミーアキャットとの会話はすべて犬飼さんによるアテレコだが、意外と正確なのかもしれない。
動物ファーストな謎の人物・犬飼さんはどこから来て、どこへ行くのか。正解は「どこへも行かない」だ。動物園にずっといる。
仕事が終われば檻に入って檻の中で暮らしている。振り返りノートをきちんとつけて、スーツを脱いだ彼女は何をするか。ここまで極めちゃったら、もう何がきても驚かないぞ~と思っていたが、
掃除用のホースでシャワーを浴びていた。そしてウマの鳴き声がしたら慌てて駆け出す。そう、犬飼さんは動物ファーストだから、自分のシャワータイムだって優先度がめちゃくちゃ低いのだ。
動物を愛し、動物に愛される犬飼さんに感化された玉村は、あらためて自分の仕事と向き合うことに。例えば動物たちみんなの顔と名前を覚えようとする。
これは難しいよ! ツルツル頭のときも、興奮して冠羽をフルオープンさせたときも、どっちがどっちだか……。玉村が名前を呼び間違えたから二羽は「ちがうよ!」と興奮しているのかもしれない。
新人の玉村にはカメの“ノリシオくん”と“ウスシオくん”の違いもわからない。犬飼さんは余裕で見分けられるらしいし、犬飼さんが教えてくれたヒントは激ムズだった。さらに犬飼さんは玉村とノリシオくんとのささいなエピソードも把握済み。さすが。ちなみに本作はページの枠の外にある人物紹介もかわいい。もちろん人間だけじゃなく動物にも同じテンションで紹介が添えられる。
ハムスターの“米粒ちゃん”と“白米くん”は名前も外見もよく似ているが、よく観察すると違いがある。それにしても白米くんを抱っこしてなでる犬飼さんの優しい手つき!
いつも小ぎれいなスーツ姿の犬飼さんは全身がどんなに獣臭くなっても気にしない。個人的には犬飼さんのスーツの伸縮性が気になる。かがんでも、四つんばいになっても、パリッとキレイ。……と、ミステリアスな点は多々あるが、犬飼さんはその動物愛で動物園全体を包んでしまう。
犬飼さんにとって動物たちの顔と名前を全部覚えるなんて朝飯前だし、自分を真ん中に置いた相関図まで作っている。敵対関係が何もないあたりが犬飼さんらしい。きっと頭の中にこの相関図がそのままあるんだろうなあ……。
犬飼さんの濃厚な動物愛に動物たちがきちんと反応しているところも愛らしい。
鯖の味に飽きたペンギンのために、犬飼さんはある方法でお魚をゲットする。実に犬飼さんらしい方法だった。ドリトル先生か犬飼さんか、といった感じのチャーミングな動物コメディだ。
レビュアー
花森リド
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
X(旧twitter):@LidoHanamori