ドルオタの朝海凪斗
彼女は、人目を引くような容姿も、誇れるものも、自分自身さえも持っていない。
自分を理解しようとしてくれる人はなく、自分に向けられるトゲトゲしい視線の先にだけ人がいる
明日は人生で初めて推しアイドルの握手会へ行く
それが終わったら死ぬのだから
30秒だけでも彼女の世界に加わってしまった罪は死んで償うので
今日だけは許してください
風寧はそう言うと凪斗の手を引いて握手会を抜け出し、車の中でこう言う……。
アイドルの水品風寧
もしかしたら、送り主が握手会の会場にいるかもしれない。でも、彼女は恐れない。
それよりも、自分がアイドルであることに憂鬱を抱えている。
私はずっと探していたの
ありのままの自分だけを見てくれる人を
握手会を抜け出したふたりは、凪斗の家で独占握手会を開く。凪斗のヤケド痕が残る手にキスをする風寧。「凪ちゃんのしてほしいことは何でもするからね その代わり手伝ってほしいことがあるの」と語りかける。
侵食するのは……
ちょっと、マジで怖いんですけど!
しばらくアイドルを休業するという風寧は、半ば強引に凪斗の家に住み始める。
今やらないと 次いつできるかわからない
そんな唯一のタイミングだから
凪ちゃんに出会えたのってある意味 奇跡なの
次に風寧は、凪斗に “バーチャルタレントの中の人”を演じることを求める。
私はバーチャルの世界で私を求める声に100%応えることにしたの
私だけを見て
私だけに尽くしてくれればいいんだよ
ドルオタと推しのアイドル。風寧は心理的に有利な立場を利用し、物事を思い通りに進めていく。そして冷蔵庫は風寧の買ってきた食料品で埋まり、家はプライベートルームに防音ルームと彼女のスペースが増えていく。
一方、空っぽな心を風寧の存在で満たし、言われるがままの凪斗。彼女が恐れるのは、この生活にいつか訪れる終わりのときだけ。しかし、風寧と話していて彼女はふと感じる
何だろう
今の言葉は全部本心だったはずなのに
全部台本通りみたいな言葉
わたしがいつか本当に推し変したらどう思いますか?
なにを企んでいるのかまったくわからない風寧と、いつか凪斗がモンスター化するのではないかという恐ろしさ。
さらには、怪文書を送りつけたストーカーが、凪斗の家の周辺に出没し始める。
風寧は凪斗を利用して何をしようとしているのか? アイドルの“キラキラ”を壊す方法は、まだ不穏な空気を孕んだまま。その展開、結末をビクビクしながら待とう。








