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2026.02.27

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死ぬ前に…最初で最後の握手会──待っていたのは推しのアイドルとの歪な生活!『キラキラの壊し方』

ドルオタの朝海凪斗

朝海凪斗は何も持っていない。
彼女は、人目を引くような容姿も、誇れるものも、自分自身さえも持っていない。
自分を理解しようとしてくれる人はなく、自分に向けられるトゲトゲしい視線の先にだけ人がいる
明日は人生で初めて推しアイドルの握手会へ行く
それが終わったら死ぬのだから
彼女の推しは、アイドルグループ「セレンティア」の水品風寧(みしなかざね)。容姿はもちろん、誰からも好かれる言葉を操る完璧なアイドル。辛いことばかりの凪斗の世界で、風寧だけがまばゆく輝いていた。握手会で与えられる時間は30秒。
30秒だけでも彼女の世界に加わってしまった罪は死んで償うので
今日だけは許してください
そして、風寧の前に立つ30秒。彼女は一方的に話す。風寧が素敵だということ。自分が本当にどうしようもないこと。人生で一度くらい大事なことをしようと会いに来たこと。自分が惨めになるたび、あなたを見て尊敬していること。そのままのあなたが存在してくれるだけで……、クドクド……。
「やっと目が合ったね」
風寧はそう言うと凪斗の手を引いて握手会を抜け出し、車の中でこう言う……。

アイドルの水品風寧

握手会が行われる日、水品風寧のもとに4度目の怪文書が届く。
もしかしたら、送り主が握手会の会場にいるかもしれない。でも、彼女は恐れない。
それよりも、自分がアイドルであることに憂鬱を抱えている。
私はずっと探していたの
ありのままの自分だけを見てくれる人を
人から求められるものに応えれば喜んでもらえる。それでWin-Win。それがアイドル。でも、求められるのはその人が想像する私であって、私自身である必要はない。
そして、握手会で彼女は出会う。
この人は、私のことが好きなのに、なんの見返りも求めない。
握手会を抜け出したふたりは、凪斗の家で独占握手会を開く。凪斗のヤケド痕が残る手にキスをする風寧。「凪ちゃんのしてほしいことは何でもするからね その代わり手伝ってほしいことがあるの」と語りかける。

侵食するのは……

『キラキラの壊し方』は、推しのアイドルから突然迫られるドルオタの夢物語ではない。ずっとゾワゾワが止まらない、先の見えないサスペンスだ。そもそも主人公の凪斗が、かなり歪んだキャラクターで、自己肯定感が低すぎる。事あるごとに自分を穢(けが)れたもののように扱い、すぐ死をもって贖(あがな)おうとする。なんというか「そこまで言うなら好きにしたら!」と突き放してしまいそうなキャラクター。そんなイライラさせるような凪斗を、“私のことが好きなのに、なんの見返りも求めない”存在として、なんの迷いなく取り込む風寧。何を企んでいるのか、まったく分からない。

ちょっと、マジで怖いんですけど!

しばらくアイドルを休業するという風寧は、半ば強引に凪斗の家に住み始める。
今やらないと 次いつできるかわからない
そんな唯一のタイミングだから
凪ちゃんに出会えたのってある意味 奇跡なの
「やりたいこと」が何なのか知ろうともせず、凪斗は盲目的にすべてを受け入れる。

次に風寧は、凪斗に “バーチャルタレントの中の人”を演じることを求める。
私はバーチャルの世界で私を求める声に100%応えることにしたの
そう言って自分が書いた台本を凪斗に話させ、自分の裏アカから配信を始める。ファンサービスに100%応える自分もまた自分の性質。その性質を改善するために配信を始めたいのだという。しかし、「水品風寧」という名前を出して配信するわけではないので、配信の意図も意味もよく見えない。しかし、
私だけを見て
私だけに尽くしてくれればいいんだよ
そう言われ、凪斗は言われるがままに配信を始める。
ドルオタと推しのアイドル。風寧は心理的に有利な立場を利用し、物事を思い通りに進めていく。そして冷蔵庫は風寧の買ってきた食料品で埋まり、家はプライベートルームに防音ルームと彼女のスペースが増えていく。

一方、空っぽな心を風寧の存在で満たし、言われるがままの凪斗。彼女が恐れるのは、この生活にいつか訪れる終わりのときだけ。しかし、風寧と話していて彼女はふと感じる
何だろう
今の言葉は全部本心だったはずなのに
全部台本通りみたいな言葉
ほんの少し、いたずら心を抱いた彼女は、風寧が想像もしないことを言えばどうなるかと考える。
わたしがいつか本当に推し変したらどう思いますか?
そう言った凪斗の顔は、風寧にはこう見えている。
歪み、欲望、これまで何も持たなかった者が、なにかに執着しはじめる危うさ……。
なにを企んでいるのかまったくわからない風寧と、いつか凪斗がモンスター化するのではないかという恐ろしさ。
さらには、怪文書を送りつけたストーカーが、凪斗の家の周辺に出没し始める。

風寧は凪斗を利用して何をしようとしているのか? アイドルの“キラキラ”を壊す方法は、まだ不穏な空気を孕んだまま。その展開、結末をビクビクしながら待とう。

レビュアー

嶋津善之

関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。

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