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2026.02.22

レビュー

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おっさんはもう、何もしたくない。最強出戻り冒険者と冒険を夢見る少女のセカンドライフ!

激務の部署を卒業してまったり過ごしていたのに、突然の緊急案件で再召喚されてしまう。
サラリーマンなら一度は経験があるのではないでしょうか。「いやいや、もう勘弁してくれ」と思いつつ、心のどこかで「あのヒリつく感覚、嫌いじゃなかったな」と思ってしまう。そんな複雑な気持ちを抱いたこと、ありませんか?
本作『最強出戻り中年冒険者は、いまさら命なんてかけたくない』(原作:明石六郎、漫画:斯道歩)は、まさにそんな話なのです。世界最高峰の冒険者集団を率いて最難関ダンジョンを攻略した男が、故郷に帰ってのんびり暮らそうとしたけれど、そうは問屋が下さなそうな気配が……?
タイトルの「いまさら命なんてかけたくない」という気持ち。これがもう、中年リーマンは共感できてしまうのです。

さて、本作の主人公ジョンマンは、世界最高峰の冒険者集団「アリババ40人隊」の一員として最難関ダンジョンを攻略した人物です。彼らの冒険譚は『全方見聞録』という小説の形で広がり、憧れを持つ冒険者志望が存在している世界。なので、ジョンマンは言わば「人生やりきったような人」。ラスボスを倒した勇者が、その後どうなったか?という話の始まりです。
ファンタジー作品の多くは「成し遂げるまで」を描きます。弱かった主人公が強くなり、仲間と出会い、困難を乗り越え、最後に目的を達成する。しかし本作は「成し遂げた後」から始まるのです。
ジョンマンは偉業を達成した後、自分のことをほとんど覚えていない故郷の小さな街に帰ってきます。住人たちは「あの出戻りのおっさん」と彼をあざ笑う。でも本人は気にしない。食うに困らないだけの財産があるけれど、毎日猫の世話をして過ごしていくのは退屈だからと、小遣い稼ぎ程度のクエストをこなして生きていく。最高なスローライフのはずだったのですが……。でも、彼の人生はまだエンドロールが始まっていなかったようで。
ある日、街一番のSSSSランク冒険者すら歯が立たなかった大盗賊団をジョンマンが撃退してしまう。そして弟子入り志願者まで現れて……。がこの1巻に収められているお話です。

ここまで私が「面白いな」と感じたのは、ジョンマンが決して無敵のヒーローとして描かれていないところです。

昔馴染みのヂュースというキャラクターが登場するのですが、絶体絶命のピンチに駆けつけたジョンマンに対し、彼はこう言い放ちます。「好き勝手に生きてきたお前にはわからんだろうがな」「俺には命に代えても守りたいモノが沢山あるんだ」と。
少なくともここまで描かれていた背景から察するに、ジョンマン側にも、何か後ろめたいものがあるのは想像できます。後ろ暗いものがなければ実家が引き払われているとか、ギルドで馬鹿にされるようなことはないはずですからね。
強いだけの主人公ではなく、過去になんらかの遺恨を残した人物として描かれている。このあたりのバランスが絶妙です。

また、ジョンマンは兄にもどうやら「放蕩兄弟」として扱われているようで、二人の間にある温度差もこれから物語に関わってきそうな気配があります。

本作には「なろう系」作品でよく見られるスキルシステムが登場します。ただ、単に「強いスキルがあってすごい」という話ではありません。スキルにはメリットとデメリットが明確に設定されていて、それが物語の緊張感を生んでいます。
このギミックを1巻の最初から丁寧に説明してくれるのは、読者としてはありがたい。「なるほど、この世界ではこういうルールなのか」と理解できます。

私はコミックDAYSで連載を追いかけていたのですが、こうして1巻としてまとめて読むと、構成の巧みさに改めて気づかされました。1巻には3エピソードが収録されていて、各話が月刊誌感覚のページ数でじっくり描かれています。そして世界観の説明、バトルのギミック、主人公の因縁と、必要な情報が過不足なく提示されています。
テンポが良いのに、急ぎすぎない。このバランスは見事です。もちろん、もう少しスローライフ部分を見たかった気もしますが、それは蛇足になるので物語のドライブ感に身を任せるのが正解ということで。

1巻を読み終えて、私が最も気になっているのは「アリババ40人隊」の前日譚です。
ジョンマンたちはどうやって最難関ダンジョンを攻略したのか。40人の隊員たちはどんな人物だったのか。解散の際に何があったのか。本編でちらりと匂わされる過去の出来事が、とにかく気になって仕方がありません。
現在進行形の物語も面白いのですが、過去編にもかなりの余地が残されています。これは長く楽しめそうな作品です。

正直なところ、1巻はまだ「プロローグ」という印象です。本格的な冒険はこれから始まるのでしょう。
しかし、このプロローグがとても丁寧に組み立てられているからこそ、「早く続きが読みたい!」と素直に思えます。世界観の説明で退屈することもなく、キャラクターの魅力もしっかり伝わってくる。導入として、これ以上ない出来栄えではないでしょうか。

「成し遂げた後の人生」に興味がある方、「いまさら命なんてかけたくない」という気持ちに共感できる方、そしてテンポの良いファンタジー作品を探している方に、強くおすすめしたい1冊です。

レビュアー

宮本夏樹

静岡育ち、東京在住のプランナー1980年生まれ。電子書籍関連サービスのプロデュースや、オンラインメディアのプランニングとマネタイズで生計を立てる。マンガ好きが昂じ壁一面の本棚を作るものの、日々増え続けるコミックスによる収納限界の訪れは間近に迫っている。

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