そんな「視点変更」ファンタジーの系譜に連なると言ってもいいのが、本作です。では、どんな視点変更が取り入れられているかというと……。
まず、本作の主人公はエルフで、名前をスネイルといいます。人よりも長命とされる、ファンタジー作品では常連のキャラクター。スネイルは、世界各地にある様々なダンジョンを踏破していきます。
それぞれのダンジョンには強力なモンスターたちが待ち構えているのですが、スネイルは相当な手練れのようで、次々と撃破。
なかには、討伐難易度SSSランクという、めちゃくちゃ強いであろう巨大モンスターも登場。
スネイルが、こうしたモンスターたちの妨害を受けながら迷路や浮島などの過酷な環境を攻略してダンジョン踏破する、その目的とは――。
これこそ、これまでのファンタジー(RPG)の視点をがらりと変えた設定。
こんなダンジョンの奥深くに、誰が宝箱なんか置いてるんだろう……などと考えもせずにゲーム内で次々と宝箱を開けては一喜一憂していた自分に教えてあげたい。スネイルのような存在が、モンスターたちを倒し、おのれの手足を使ってひとつひとつ丁寧に置いてくれていたのだと。
当たり前にあるものに対して、まったく違う角度から視線を向けると、今まで気づかなかった豊かな世界が広がっていく……そんなことを体験できるのが本作の魅力のひとつです。
スネイルはこうして数々のダンジョンで、すでに開けられてしまった宝箱の補充を、何百年以上にもわたって行っていますが、モンスターたちとのバトルやダンジョン踏破だけが見どころではありません。
もうひとつ、面白いなと感じたのが、ダンジョングルメ。道中で遭遇するモンスターたちのなかには、討伐対象のものもいれば、食材になるものもいるのです。
たとえば植物系モンスターのマッドトレントは、サクっと倒した後で以下のように手際よく処理します。
宝を求める冒険者たちのために、世界中のダンジョンを巡ってひたすら宝箱を設置していくエルフの物語は、その過程で出会う様々なモンスター(食材)たち、そして地下、水中、空中などあらゆる環境のもとで待ち受ける不思議なダンジョンの数々に心躍らされ、読む者を「宝箱を開ける冒険者と、モンスター」だけではない多面的なファンタジーの世界へと誘ってくれます。
現実の世界においても、「あって当たり前」の存在は、その裏で誰かが、あるいは何かが動いているからなんだと、そんなことをあらためて感じさせてくれる作品です。