本作は、2020年という西暦下にある現代日本が舞台。ただひとつ、私たちが暮らす現実と異なるのが、呪文の存在です。当たり前に呪文が使用されるこの世界にて、危険な呪文を探して封印する公的機関が、総務省スペル・セキュリティ統括室。この組織に所属する瀬川良星(せがわりょうせい)三等捜査官が、本作の主人公です。
「呪文サブスク」という設定の妙
この世界における呪文は、特殊な才能を持っていたり、修練を積んだりした魔法使いや呪術師による特殊な詠唱ではなく、スマホを使い、電話を掛ける要領で呪文申請すれば発動されるという、とても手軽なもの。
呪文が当たり前のように生活に馴染んだ、そんな世界で巻き起こる呪文関連の様々な犯罪を捜査するのが、総務省スペル・セキュリティ統括室の瀬川なのです。
名コンビ爆誕! 元犯罪者の捜査官と天才呪文クリエイター
男女を捕獲し監禁する強制マッチング呪文「ザ・ハッピーエンド」。これと連動する完全自律稼働の使い魔に追われていた潤見を、瀬川が助けたことでふたりは出会います。
いざ役場へと突入したふたりは、今回の件の首謀者である国際的呪文テロ組織「まひとの家」の使い魔と対峙。「まひとの家」は瀬川たちが追い続けていた捜査対象であり、これが初めての交戦。軍用呪文を駆使する手ごわい相手にダメージを負いつつも、潤見との見事な連携によってこれを駆逐します。
潤見の父である生天目萬月(なばためまんげつ)が、かつて「まひとの家」の一員であったことも明かされ、今回の事件が、娘の潤見をおびき寄せるために組織が仕組んだことも発覚。組織のことを調べている瀬川は、捜査協力として潤見に東京まで来てほしいと告げます。
ユニークな呪文の数々にも注目
呪文の名称が示すその効果や意義にピンとこないとき、「……なんて?」と聞き返すのは瀬川の癖。1巻の時点ですでに複数回登場するこのセリフ。微妙な呪文が出てくるたびに、瀬川の「……なんて?」待ちな自分がいました笑。ユニークな研究を表彰するイグ・ノーベル賞を思い浮かべてしまうような、独特の呪文たち。「婚活呪文」と「リモコン呪文」のどちらも潤見が作成者です。さすがは凄腕呪文クリエイター。
テロリストという過去をもつ、魔術捜査官・瀬川。若くして数々の呪文を作り出す天才・潤見。ふたりは「まひとの家」との初戦に勝利したものの、これは長い戦いの始まりに過ぎません。テロリストだった瀬川を救った上司・アベとはどんな人物なのか? 潤見の父・萬月と「まひとの家」との関わりとは? 瀬川の過去には何があったのか? 潤見は他にどんな楽しい(?)呪文を生み出しているのか?
様々な謎とアイデアに満ちていて、「こんな呪文あったらいいな」なんて想像も膨らみながら、続きが早く読みたい!と思わせてくれる作品です。








