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2025.11.12

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猫最高!! 悩める私は猫になる!! 自由と悩みが交錯する青春コメディ『遊月は猫になる』

人間には2種類あります。猫派と犬派です。私は犬派。実家にいた頃は常に犬と共にありました。でも、もしなれるとしたら、犬より猫です。「あなたの猫になりたい」と言うとほっこり、あるいは可愛い雰囲気が漂いますが「あなたの犬になりたい」だとなんだか変な空気が……。

人は、なぜ猫になりたいのでしょうか。犬はしっかり躾けられて、飼い主にも従順。一方の猫といえば、そのイメージは自由そのもの。かまってほしいときだけ寄ってきて、気が変われば知らんぷり。そしてそれが当然のように受け入れられている。そんな気ままな生き方に憧れるからかもしれません。

本作は、主人公が突然猫に変身するという、一見突拍子もない設定で描かれています。しかし、実は人間同士のコミュニケーションにおける本質を切り取った、鋭い視点が散りばめられた作品でもあるのです。

猫が壊す、先入観という壁

主人公は、高校1年生の三毛遊月(みやけゆづき)。入学から1ヵ月経っても友達ゼロ、隣の子たちが盛り上がるアイドルの話題にもついていけません。あまりの孤独感に、いつも自由で1人でいても浮かない猫になりたいと願う、クラスに馴染めない女子高生です。
そんな遊月の想いが通じたのか、屋上で1人お弁当を食べているとき、彼女は突如猫に変身……! 魔法をかけられていた、とか何か怪しい薬を飲んでしまった、といった原因など皆無ですが、本作でそこは重要ではありません。外的刺激より内的要因がポイントです。
あまりに現実離れした現象に、遊月はこれを「夢」だと認識。学校に現れた猫に群がり、「かわいい!」と、触りまくる女子高生軍団から逃れた先には、クラスメイトのヤンキー・夏梅(なつうめ)が。彼は怯える猫(遊月)に、お弁当のおかずを分け与えます。最初は警戒するものの、いい匂いに抗えずおかずをぱくつく遊月。
夏梅がネクタイを外して猫じゃらし風にちょっかいを出すと、遊月はまたまた抗えず身体が勝手に反応。しばし1人と1匹の楽しい時間を過ごすなかで、彼女はあることに気づきます。
まさかのヘルビースト仲間! このあと夏梅が流す曲に合わせ、猫(遊月)が歌うシーンはほっこり度120%なので、ぜひコミックスでチェックしてほしいところ。

遊月にとって入学以来いちばん楽しい時間だったわけですが、今度は徐々に猫化が解けてしまう事態に。しっぽが消え、耳が消え……。夏梅の前で人に戻ってはマズイ、と慌ててその場から逃げ出した遊月。

教室に戻った彼女は、さっきまでのふたりの時間の延長で、夏梅にこう話しかけてしまいます。
みんなが距離を置いていたヤンキーに対しフレンドリーな物言いにざわつく教室。そして夏梅も困惑。
でも彼との間に「音楽好き」という共通点が見つかり、遊月は初めてクラスメイトとまともに会話ができたのです。

“猫をかわいがる不良”というベタな構図でありながら、そこには「パッと見の印象で相手を判断しない」というコミュニケーションの基本が隠れています。これは遊月視点ですが、逆に夏梅視点で言えば、「(猫以外にも)素を見せることで距離が縮まる」という、これまた基本的なポイントが示されたエピソードでもあります。

遊月はなぜ猫になってしまうのか!?

本作において、遊月が猫に変身してしまう機能的な仕組みは明かされていません。ただひとつ言えるのは、遊月の感情が影響しているということ。学校での居場所のなさやテスト前の憂鬱など、負の感情が芽生えると猫化し、猫として楽しい時間を過ごすと、人間に戻る。まるで遊月の現実逃避ツールとして機能しているかのようです。

ああ、こんなツールが私にもあったら……。その場しのぎにしかならなかったとしても、辛いと感じたことから逃げることもまた、人生には重要なのです。遊月の場合は、逃避先である猫時間に他人の良い部分を見つけたり相手のキャラクターを掴んだりして、そこで得た知見を人間に戻ってから活かしており、現実逃避タイムをめちゃくちゃ有意義に過ごしている点が素晴らしい!

注目キャラは驚異の察知能力をもつ親友・晶

本作には遊月、そしてヤンキー夏梅以外にも愉快なキャラが登場します。なかでも特筆すべきは、同じ高校の同級生である晶(あきら)。彼女は遊月の小学校からの友人で、高校では別のクラス。誰よりも遊月のことを知る晶の凄さは勘の良さ、すなわち察知スキルです。

放課後に図書室で勉強を始めたふたり。しかしテスト勉強が嫌すぎて遊月は猫に変身。もちろん、晶の前で猫化するわけにはいかないので、慌てて姿を隠したのですが、突如図書室に現れた猫を見つけた晶は、こんな反応をします。
ノーヒントでこれです。恐れ入りました。さらに猫化のトリガーまで察知。
学校に遊月の猫化の秘密を知る幼馴染(おさななじみ)がいるというのは心強いもので。ある日、学校行事で1泊2日の林間学校に出かけた遊月ですが、夏梅とは打ち解けたと言いつつ、クラス全体にはまだ馴染めていない彼女にとって、集団行動はまだ緊張感が抜けません。さらに班内に険悪な空気が流れ、ストレスがたまった結果、猫化(もちろん人前を避けて変身)。

そこにたまたま通りかかった晶は、猫(遊月)と目が合うと――
頼れる親友の存在、ありがたすぎます。

秘密を知る友人の協力を得ながら、身バレならぬ猫バレを回避しつつ、クラスメイトたちとの交流を深めていく様を柔らかいタッチとほんわかしたエピソードで描く。猫という愛される存在を媒介に、他人同士が少しずつ距離を縮めて仲良くなっていく高校生たち。

そんな彼らの学園生活を見守りながら読んでいると、なんだか心が温かくなってきて、優しい気持ちになれる。そしてあらためて、猫になりたい……と思ってしまう愛らしい作品です。

レビュアー

ほしのん

中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。

X(旧twitter):@hoshino2009

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