人は、なぜ猫になりたいのでしょうか。犬はしっかり躾けられて、飼い主にも従順。一方の猫といえば、そのイメージは自由そのもの。かまってほしいときだけ寄ってきて、気が変われば知らんぷり。そしてそれが当然のように受け入れられている。そんな気ままな生き方に憧れるからかもしれません。
本作は、主人公が突然猫に変身するという、一見突拍子もない設定で描かれています。しかし、実は人間同士のコミュニケーションにおける本質を切り取った、鋭い視点が散りばめられた作品でもあるのです。
猫が壊す、先入観という壁
遊月にとって入学以来いちばん楽しい時間だったわけですが、今度は徐々に猫化が解けてしまう事態に。しっぽが消え、耳が消え……。夏梅の前で人に戻ってはマズイ、と慌ててその場から逃げ出した遊月。
教室に戻った彼女は、さっきまでのふたりの時間の延長で、夏梅にこう話しかけてしまいます。
“猫をかわいがる不良”というベタな構図でありながら、そこには「パッと見の印象で相手を判断しない」というコミュニケーションの基本が隠れています。これは遊月視点ですが、逆に夏梅視点で言えば、「(猫以外にも)素を見せることで距離が縮まる」という、これまた基本的なポイントが示されたエピソードでもあります。
遊月はなぜ猫になってしまうのか!?
ああ、こんなツールが私にもあったら……。その場しのぎにしかならなかったとしても、辛いと感じたことから逃げることもまた、人生には重要なのです。遊月の場合は、逃避先である猫時間に他人の良い部分を見つけたり相手のキャラクターを掴んだりして、そこで得た知見を人間に戻ってから活かしており、現実逃避タイムをめちゃくちゃ有意義に過ごしている点が素晴らしい!
注目キャラは驚異の察知能力をもつ親友・晶
放課後に図書室で勉強を始めたふたり。しかしテスト勉強が嫌すぎて遊月は猫に変身。もちろん、晶の前で猫化するわけにはいかないので、慌てて姿を隠したのですが、突如図書室に現れた猫を見つけた晶は、こんな反応をします。
そこにたまたま通りかかった晶は、猫(遊月)と目が合うと――
秘密を知る友人の協力を得ながら、身バレならぬ猫バレを回避しつつ、クラスメイトたちとの交流を深めていく様を柔らかいタッチとほんわかしたエピソードで描く。猫という愛される存在を媒介に、他人同士が少しずつ距離を縮めて仲良くなっていく高校生たち。
そんな彼らの学園生活を見守りながら読んでいると、なんだか心が温かくなってきて、優しい気持ちになれる。そしてあらためて、猫になりたい……と思ってしまう愛らしい作品です。








