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2025.11.11

レビュー

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ミステリーランキング2冠の『爆弾』をコミカライズ! 爆弾魔の悪意に戦慄する!!

「取るに足らない傷害事件」。誰もがそう思っていた。

川崎の酒屋で酔っ払って酒の自販機を殴りつけ、止めにかかった店員にも暴行。
逮捕され、連行されてきた「スズキ・タゴサク」を名乗るその中年男は、取調室では飄々(ひょうひょう)と捉えどころのない言動を見せつつ、ニヤニヤ笑うのみ。担当した2人の刑事も、正直「取るに足らない傷害事件だ」と、やる気ゼロだった。

取り調べを担当した刑事・等々力も、もともと犯罪捜査の意欲に誰よりも欠けている落ちこぼれ刑事。「こんなクズを相手にするのは時間のムダ以外のなんでもない」と、面倒くさい立件を避けて丸く収める方向へ誘導しようとしていた。

しかし、この男が“霊感”を働かせて、ある事件を予言したことで事態は一変する。

「うん、10時ピッタリ。秋葉原の方で何かありますよ」

その5分後、予言の時間・午後10時となり、取調室に別の刑事が駆け込んできた。

「秋葉原で爆発。詳細は不明」

「わたしの霊感じゃ、ここから3度。次は1時間後に爆発します」

そう伝えたうえで、場所などを聞き出そうとする等々力の追及もはぐらかすばかりで、何も教えようとしないタゴサク。そうこうしているうちに午後11時。今度は水道橋、東京ドームの付近で爆発が起きる。

取り調べの担当者として「引き続き等々力刑事を」と指定するタゴサク。
しかし、事態を重く見た警視庁より、捜査一課特殊犯捜査係の腕利き捜査員、清宮と類家の2名が派遣される。

犯人のプロファイリングや心理分析に長けた捜査官・清宮が、等々力と入れ替わって取調室でタゴサクと対峙。その清宮を相手に、タゴサクはあるゲームを提案する。
タゴサク主導の「九つの質問に答えるゲーム」を続けていく中で、タゴサクの歪みきった人間観や、過酷な体験などからくる腐りきった欲望が徐々にあらわになっていく。さらに捜査官は、彼の繰り広げる「意図を図りかねる言動」の中に、彼らが求める情報についての大きなヒントが隠されている可能性に気づく。

大胆にも警察を相手に「不特定多数の人命を賭けた頭脳ゲーム」を挑んできたタゴサク。本庁の清宮と類家、そして過去のある出来事がキッカケで犯罪捜査への意欲を失っていた等々力刑事らが、警視庁・警察庁の威信をかけて「史上最悪の爆弾魔」に対峙する。

有無を言わさず「己の中に潜む悪意」と向き合わされる、珠玉のミステリー

本コミックの原作は、呉勝浩による同名小説。
日本最大級のミステリーランキング『このミステリーがすごい!2023年版』、『ミステリが読みたい! 2023年版』国内篇で、驚異の2冠を達成したベストセラーだ。

コミカライズを担当したのは、累計200万部超のサスペンス漫画『君が僕らを悪魔と呼んだ頃』の作者である、さの隆。これで、ハズれるわけがない。

とにかく人をイラつかせる天才である「史上最悪の爆弾魔」スズキ・タゴサク。
彼は「学のない愚鈍な男」に見える外見の印象とは裏腹に、巧みな言葉遊びを得意としているようだ。捜査官は、彼の無意味に思えるゲームの中で発せられる発言の中には、爆弾の仕掛けられている場所や爆発する時間などのヒントが隠されていることに気づく。

犯人のプロファイリング、心理分析、心理操作に長けたエリート捜査官・清宮、そして第1巻の時点ではまだその能力を詳らかにしていないが、どこか先を見通したような「有能ムーブ」な言動を見せている交渉人・類家。

「ある事件」をキッカケに警察官としての意欲を失っていた等々力も、タゴサクに心をザワつかされ、本庁のエリートたち(清宮・類家)に食い下がってまで捜査に加わろうとする。さらに等々力に犯罪捜査への意欲を失わしめた過去の「ある事件」が、タゴサクの犯行動機と少なからず関わっていることが発覚。事件の奥に隠された深い因縁が、少しずつ姿を見せ始める。
ある意味、ミステリーのひとつの定番ともいえる「予告爆弾魔と警察との対決」というプロット。しかし、捉えどころのない犯人・タゴサクの示唆に富んだ言動と、それに対峙する有能プロファイラーである凄腕捜査官との緊迫感溢れる腹の探り合い、化かし合いが、本作を極めて非凡なエンタテインメントに昇華している。

2025年10月31日(金)公開の映画『爆弾』では、主演の山田裕貴はタゴサクとの交渉に挑む捜査官・類家を演じている。タゴサク役を演じるのは、コメディからシリアスまであらゆる役を見事に自分のものとする憑依型(ひょういがた)の名優・佐藤二郎。

映画で主役である類家は、第1巻の時点では「いかにもキレモノっぽい言動」は見せながらも、まだ目立った活躍を見せていない。その時点で、第2巻以降の物語の展開が、まだ二転も三転も見せてくれることが保証されているようなものだ。

正直、まだ導入に過ぎない第1巻で、ここまで心をザワつかされるとは……。
原作小説の方のレビューによると「捉えどころのない悪意」が漏れ出ているタゴサクの言動に心をかき乱される中で、捜査官はもちろん、読者もいつしか自らに無意識に存在する「悪意」と正面から向き合わざるを得なくなるという。第2巻以降の展開が、心から楽しみだ。

本レビューを書いている時点では映画の公開直前であり、続き(第2巻)を待ちきれずに映画を観たい気持ちが湧いてきた。もちろん、未読の原作小説を読みたい気持ちも湧き上がる。さらにマンガ好きとしては展開を知らない状態で、コミカライズの続きを楽しみたいという思いもある。さて、次の一手はどれにしようか……。

レビュアー

奥津圭介

編集者/ライター。1975年生まれ。一橋大学法学部卒。某損害保険会社勤務を経て、フリーランス・ライターとして独立。ビジネス書、実用書から野球関連の単行本、マンガ・映画の公式ガイドなどを中心に編集・執筆。著書に『中間管理録トネガワの悪魔的人生相談』『マンガでわかるビジネス統計超入門』(講談社刊)。

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