そのまま穏やか&ハッピーに暮らしておくれ~~~とヨシヨシしたくなるマンガだ。
逃亡を続ける謎の少女・“六花(りっか)”に、エドの街に暮らす青年・“十真(とおま)”は「平穏な生活」を申し出る。彼はそういう生活の値打ちをよく知っているからだ。
味噌汁とぬか漬けと炊きたてのごはんで朝ごはん。十真はのんびりと1人で丁寧に暮らし、そんな自分の生活を心から愛している(本作は台所仕事の描写がとてもいいマンガでもある)。ちなみに十真のお尻には太くてモコモコな尻尾が生えている。そう、この世界に生きる者たちは獣人だ。
十真は狼で、お仕事は定町廻同心(町のお巡りさん的存在)で、いざとなったら狼の姿になってコソ泥を追い回す。とびきりしつこい狼にぴったりの職業だ。しかも彼は正義感がとても強い。
そんなだから職場での評判も上々で、地域の人気者。自分に合った仕事をして、安定した生活基盤を築いて、1人で穏やかに暮らしている。1人サイコー! 人生大満足! 彼にウットリする獣人はいっぱいいるが、十真本人は誰にもなびかず結婚願望もナシ。人生の優先度が明確だ。
それなのに、なぜ十真は六花との生活を選んだのか。
夜のエドの見回りの最中に、ならず者たちに追われる六花に出会い、助けてしまうのだ(仕事だし、そもそも困っている人を見過ごせない)。で、「姫様」と呼ぶ“でかい獣人”が、ヒョイッと六花を十真に預けてしまう。
もちろん六花も獣人だ。
六花は小さなモチモチ白兎。そしてでかい獣人こと“三瑠(みる)”は、でかい虎であり、人の姿になるとグラマラスで美しい。それにしても兎になった六花は小さくて、確かにヒョイッとできちゃうサイズ感だなあと思うが……?
実際は「大兎獣」と呼ばれるビッグな兎で、がんばって小さな姿になっているらしい。
大きくなってもモチモチでカワイイ。ただ、本当に大きくて大きくて、六花が本気で暴れたら狼だって太刀打ちできない。そして六花は、とある国のお姫様でもある。つまり歩く希少価値。よからぬことを考える獣人もたくさんいたようで、六花は平穏とは無縁の逃亡生活を送っていた。だから十真が焼いてくれた焼きおにぎりを頬張りながら、その温かさにポロポロ泣いてしまうことも。わかるよ、心細いときに温かい物を口にすると泣いちゃうよね。
温かい食事や、雨露をしのげる家で安心して眠る尊さを愛する十真は、自分の平穏な生活を、この苦労続きのお姫様に「献上」することを決める。決めたら徹底するあたりにも、真面目で誠実な十真の人柄がうかがえて、とてもいい。
六花にとってエドでの新生活は楽しいことでいっぱい。
ある日はエド最先端の商業エリア「ハイカラ通り」で十真とお買い物。ここで六花が何を買ってもらったかはお楽しみに。とてもホッコリする。そして「妙々々々々々々々~」は六花の口癖だ。たぶん「サイコー!」みたいな気分の表れだろう。かわいい。音声でも聞いてみたいよ。
平穏な生活を望むお姫様と、そのお姫様に平穏を献上するエドの同心。十真は身分の違いをわきまえているし、下心も何もなく六花と暮らし始めた。指一本触れず、ただただ六花を優しく守る十真の様子と、素直に甘える六花の日常に和む。読むとホッとする恋愛時代劇だ。
だけど同居すればいろんなことがある。非の打ち所がない同心の十真にも「苦手なこと」があったり(実に狼らしい弱点だ)、周りには「どういうご関係で?」なんて詮索されたり。何かあるたびに2人はお互いを大切にしながら平穏な生活を守っていくが……?
お姫様から「撤回しないか?」と言われたら同心は従うしかない? こんなにずっと一緒に居て、ずっとハッピーで「妙々々々々々々々々~」を連呼してしまうのだから、大好きになるのはやむなし。六花の朗らかかつ大胆なお姫様っぷりを味わってほしい。