普通に喋れるなんてびっくり
『水の底にも春はくる。』の主人公“ハル”は生まれつき魅惑的な人間だった。いわゆる「モテ」とはレベルがまったく違って、それはハルを幸福にはせず、むしろ不幸ばかり呼び寄せる。
でも1週間前から“あるひと”がハルの部屋に転がり込んでいて、なんだか普通に暮らしている。
ところで、人間といるときよりもハルの表情がやわらかい。ナミマとハルは、出会った直後から普通に会話ができている。ナミマは、人間がハルに向けるようなハートの目をしていない(人間じゃないもんなあ)。そしてハルはナミマの異形の姿が怖くない。ということで、自然なコミュニケーションが成立している。
そして蛸の半魚人のナミマは竜宮城からやって来たのだという。
竜宮城に人間っていますか?
この2人の生活がなんとも楽しそうなのだ。見飽きない。
そして生活といえば食事。
そしてハルはちゃんとナミマのリクエストに応えてあげる。
きっとお互いが心地よく思っていて、読んでいるこちらもずっとこんな生活が続けば楽しいのになあ……と思うが、ナミマは竜宮城に帰らないといけないらしい。
ハルのこれまでの人生を知っているならば、おそらく答えはすぐに出るはずだ。
ハルの切羽詰まったお願いを、ナミマはお安い御用ですとアッサリ引き受けてくれた。次の満月がきたら2人は一緒に竜宮城へ行くのだという。
ところで浦島太郎のお話では、浦島太郎の「最初の旅立ちの理由」には、彼自身の不遇は特になかったはずだ。親切なナイスガイが竜宮城へ行きパーティー三昧ののち、もとの世界と大きく引き離され、ここでやっと不遇の身となり、やがて玉手箱をあけて白髪の老人に変わる。時空旅行とメタモルフォーゼの物語だ。
ハルの竜宮城行きにも何かそんな仕掛けがあるんじゃないだろうか。だって今のままじゃハルの人生あんまりなんだもの。そして人生が変わるときは、たぶん環境だけでなく自分自身の何かも変化することになる。本作に登場したある映画作品もたしかそんな物語だった。ということで2巻が楽しみだ。








