前作をご存じない方にざっくり説明しますと、燈馬は15歳という若さでMIT数学科を卒業した天才少年。飛び級による大学卒業だったため、普通の高校生活を経験すべく、日本の高校へ入学。そこで可奈と出会います。天才的頭脳をもつ燈馬が指示・推理担当、抜群の運動神経と明るいキャラで世話焼きな性格の可奈が現場担当というバディを形成し、数々の難事件を解決していきます。
前作『Q.E.D. iff-証明終了-』の終盤にて、二人の関係は恋人へと発展。タイトルに「UNIV.」とあるように燈馬はMITの博士課程に、可奈はハーバード大学に進学。舞台を高校から大学へ、そして日本からアメリカへとその地を移し、新たなストーリーが展開していく……というのが本作の軸です。
彼が15歳でMIT卒の天才、燈馬想。


新章幕開けとなるエピソードは、60年前にボストンの富豪宅で起きた、とある出来事が発端となり、その家の売却を巡るゴタゴタの相談事が燈馬たちに舞い込むところから始まります。
60年前、富豪の娘がヒッピー文化にかぶれた男と付き合い、名家を汚す享楽的な生活へと堕落。これを不安視した家族が男を追い出そうと画策しますが、娘は逆上して常軌を逸するような報復を繰り返します。その結果、家族は娘と男を引き離すことを断念。そんなある日、男のもとにドイツやオーストリアに伝わる、クリスマスにサンタと一緒にやって来るという「クランプス」の人形が届きます。これを見て「故郷の怪物だ」と喜ぶオーストリア出身の男でしたが、その後、彼は富豪の娘と暮らす家で何者かに銃撃されてしまいます。屋敷に勤める家政婦がこれを目撃するのですが、撃たれて倒れたはずの男は消え、その場には、銃を握ったクランプスの人形だけが残されていた……というのが事件のあらまし。


本シリーズおよび本作は、燈馬の的確な導きと推理、そしてその身体能力や社交的でおせっかいな性格を生かした可奈の躍動によって、事件を解決していくカタルシスが魅力。しかし、その面白さは難事件を解決するだけにとどまりません。単に巻き込まれた事件を推理力と行動力で解決して終わるのではなく、読者の知的好奇心を刺激する要素がふんだんに、ちりばめられています。
特に本作は、新章すなわち大学入学という新生活が始まったばかりということもあり、可奈が進学したハーバード大学での講義内容が事件と関係が出てくるという構成で、アカデミックな話題が盛りだくさん。
たとえば冒頭では、可奈が大学で選んだ「天文学」の講義の様子が描かれます。宇宙の始まりといえば「ビッグバン」が有名ですが、教授はビッグバンが起こる前の宇宙を説いた「インフレーション理論」なるものが存在すると説明。「地平線問題」「平坦性問題」という何やら難しい用語も出てきて、イマイチ理解できない可奈は、博学な燈馬にヘルプを求めます。





1巻後半のエピソードでは、有名な「人間は考える葦である」というパスカルの言葉に焦点を当てつつ、ランサムウェアを用いてボストンの有名大学を狙ったシステム脅迫事件の解決に挑む、二人の奮闘が描かれます。さらには、排外主義で暴れる大統領の影響を受ける大学留学組のルームメイト、という現在進行形な現実世界の状況まで描写している点も見逃せません。
また、二人が恋人同士という、これまでにない関係性を築いているという部分でも、シリーズ読者にとって新鮮なドキドキが味わえます。
常に読者の知的好奇心を刺激しながら、社会情勢や人間関係の変化も取り込んで、その推理力と行動力でトリックを暴き、犯罪を解決へと導いていく本作は、シリーズ通算28年目になる長期連載作品ながら、いつだって新鮮な驚きと興奮を提供してくれる本格推理作品です。
トリックの秘密を推理するもよし、燈馬と可奈の恋人関係にドキドキするもよし、新たな知識を得る喜びに浸るもよし、様々な楽しみ方ができる本シリーズの新章スタートに、私の期待値はビッグバンのごとく膨張中です!