かわいい存在とかわいい存在が同じ空間にいて、毎日仲良くハッピーに過ごしていると、こんなに美しいだなんて! すばらしい。ずーっと続いてほしい。
この「仕方ないわね 今回だけよ」が聞きたくて『ナキナギ』を毎話読んでいます。つまりちっとも「今回だけよ」じゃなくて、“ナキカ”はことあるごとに“汀(なぎさ)”のお願いをかなえているのです。
雨の日に相合い傘で一緒に帰ったり(汀がぬれないように傘を傾けて自分の左腕をびしゃびしゃにしながら歩くナキカが尊い!)、おいしいクリームパンを「好きなものは分かち合いたいじゃん!」と汀が差し出せば一口ガブリとかじってみたり。
ナキカは甘いものが苦手なのに、汀に言われたら食べちゃうのです。それも思いっきり全力で。ナキカが汀に傾ける優しさはその威力も方向もちょっと特殊です。
例えば高速船で船酔いしそうな汀のためにナキカはこんなこともできてしまいます。
ナキカ以外の人は乗客も乗組員もプカプカとお休み中。ナキカに身を預ける汀と彼女の手をギュッと握るナキカがかわいい。
みんながスヤスヤ眠っているうちに高速船は港に着き、汀は心配していた船酔いを味わうことなく下船。魔法みたい。そう、ナキカは人間ではなく魔女です。深い海の底からやって来た魔女で、今は人間の世界で暮らし、高校に通っています。
で、ナキカの魔法は、人知れず汀を守り大切にすることだけに使われています。
おっちょこちょいな汀をそっと助けた黒いタコのような触手も、おそらくナキカの魔法でしょう。汀も高校のみんなも、このすらりと背の高い(174cm!)ミステリアスなクラスメイトの秘密を知りません。
とっぷりと暗い闇に胸がひんやりするのに同時にホッするマンガです。汀はナキカがいてくれると毎日がとても楽しくて、安心できるみたい。でもこれは魔法の力のおかげだけじゃなさそう。ふたりは親友です。
ナキカと汀は寮生活を送りながら高校に通っています。南の離れ小島にある、人魚の像がすてきな学校です。そして汀は現在初恋の真っ最中。
初恋の相手は隣の席の“茂崎くん”。もう毎日キュンキュンしていますが、3ヵ月何も話せていません。彼に話しかける「きっかけ」が汀にはわからないのです。で、そんな汀の様子がじれったくてしょうがないナキカは、見かねて協力することに。
ナキカは、学校の窓から見える美しい海に向かって何かワイルドな魔法を使い、やがて急に雨が降りはじめます。
持っていた傘を握りしめて駆け出す汀。向かう先はきっと茂崎くんでしょう。ナキカは、大雨と「傘持ってない人は災難ね」というセリフをしれっと繰り出して汀が待ち望んでいた「きっかけ」を作ってあげたみたい。優しい!
『ナキナギ』で私がとても好きなところは、ナキカの豪快なのにさりげない魔法と汀へのまなざしです。やれやれみたいな顔をして見せて「今回だけよ」と言うのに、ナキカは絶対に汀を悲しませたくないのがよくわかる。
海の者たちからはこんなに“悪”付きでビビられている魔女だというのに、汀に愛情深く、そして人間の気持ちはわからないけれど、人間のそれをないがしろにはしないのです。
ナキカはきっとすごい魔女なのに、その魔力を汀そのものには行使しないところも、私はとても好きです。
茂崎くんに意識してもらうために大人っぽくなりたいなあと悩む汀に、大人っぽくなる魔法は絶対にかけないのです。もちろん茂崎くんの心にも魔法をかけません。汀の恋をあの手この手で応援する魔女のナキカになら、きっとたやすいことだろうに。そしてこのナキカの顔! 言いたいことがいっぱいあるけどいろいろ考えてしまっている顔!
このあとナキカが汀になんとかして伝えようとする言葉は、単行本限定の描き下ろし(40ページ!)とあわせて読んでほしいです。いろんなことがわかってナキカのことをもっと大好きになります。
汀の買い物は一度悩むと長引くし、かわいらしい服が好きな汀を大人っぽく見せる服を探すのも大変だけど、ナキカは「今回だけよ」と付き合ってくれます。これは魔法じゃなくて親友の買い物ですものね。あー、かわいい。
レビュアー
花森リド
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
X(旧twitter):@LidoHanamori