閉鎖空間で展開するハーレム・エロサスペンス『
僕は君たちを支配する』で強烈な印象を残した千田大輔の新作となる本作。再びの超エロ系マンガかと思いきや、今回描いたのはなんとピュアラブ!?
本作の主人公は、売れない女優・星野ヒカリ。所属事務所・ヒメジ芸能のポンコツ女社長のせいで業界内に悪評が広がり、ドラマのオーディションにも大遅刻と散々だったヒカリが事務所に戻ると、室内はひどく荒らされていました。そして社長から、事務所にはヤクザに1億の借金があり、ほとぼりが冷めるまで休業すると告げられ、万事休す。「女優の夢は捨てちゃダメよ」という社長の言葉を胸に事務所を出たヒカリは、その足で債権者である関東最大の暴力団・鑑組(かがみぐみ)へと向かいます。
そこで出会ったのが、若頭(カシラ)の鑑仁(かがみじん)。
ちなみにこのコマは、ヤクザの事務所を前にさすがにビビって、こっそり中を覗き見していたヒカリを押し出すように、カシラが登場したシーンです。
最初は戸惑いながらも、強面な反社集団相手に、ひるむことなく啖呵を切るヒカリ。
なんだかんだお世話になったヒメジ芸能を守る!という使命感に燃えるヒカリ。最初は「謝れ」から始まった口論ですが、話の流れから、事務所の存続は認められ、ヒカリも女優としての活動が継続できることに。
しかし、そこはヤクザ。きっちりと条件を提示してきました。
なんだ、やっぱりピュアラブじゃない、がっつりエロで攻めるマンガなんだ!と思わせる展開。事務所、そして社長のためにと覚悟を決めたヒカリ。まだHは未経験だというのに、“ヤリ部屋”へと連れていかれ、あんなことやこんなことをされてしまいます。一方、カシラの“ムスコ”はバッキバキ。
ピュ、ピュア過ぎる! あまりにピュアすぎて、ちょっとときめいてしまいました(借金のカタに女性を抱こうという、ゲスな行為の最中ではありますが)。
前戯のさなかではありつつ、カシラはヒカリに、サラリとこんな言葉をかけます。
(ポンコツ社長のせいで)オーディションもことごとく落選し、女優の道も諦めかけていたヒカリにとって、勇気を与えてくれる宝物のようなカシラの言葉。「そんな嬉しいこと、言われたことない」と思わず涙も溢れ出ます。これでひとつ踏ん切りがついて、あらためて自らの体をカシラに捧げる覚悟ができたヒカリでした。
さあいよいよ本番……というところなのですが、そんなヒカリを置いて、カシラは“ヤリ部屋”から出て行ってしまいました。状況が理解できないながらも、とりあえずはこの場から逃げるヒカリ。一方のカシラはというと……。
金・女・暴力が代名詞のヤクザ。その幹部でもある若頭ともあろう人が、実は童貞……。そうなのです。鑑組若頭・鑑仁はまだ、エッチを経験したことがなかったのです(その割に前戯は上手い)。しかし、ここまで挙げてきた事例からも察しがつく通り、童貞だからピュアというよりも、ピュアだからこそ、(口では軽率に「ヤる」なんて言いながらも)実はその行為を誰よりも大切に捉えており、それゆえ今もなお童貞でいる。鑑仁とはそういう男なのです。
ちなみに、“ヤリ部屋”を出て事務所に帰ったヒカリは、社長からオーディション合格の知らせを受けます。大遅刻して完全にアウトだと思った今回のオーディション……まさかの大逆転劇と思いきや、その裏ではカシラがプロデューサーを脅迫。無理やりヒカリを合格させていました。もともとその素材は評価されていながら、ポンコツ社長の悪評ゆえ落とされていたヒカリです。これを機にようやく女優としての道が拓かれたのでした。
ピュアその5:始まったばかりの恋って、こういうこと!
さりげない言葉から、その純愛っぷりが伝わってくるカシラ。ヒカリから「(カシラのことを)なんて呼んだらいいかわかんない」と言われたときの返しからは、まさに純度100%の恋心が溢れ出ています。
なんて呼ばれようが、呼ばれることそのものが喜び。なんだか自分の、遠い昔の初恋を思い出すような、照れくさいけど清々しい、そんな淡い気持ちがよみがえってきます。
「ヤる」と言いつつなかなか手を出さないカシラと、身を捧げる準備はできているヒカリ。ふたりはいつか、結ばれるのか。ヤクザ、そして女優という立場から様々なトラブルも予想されるのふたりの「ロードトゥセックス」を、しっかり見届けたいと思います。
レビュアー
ほしのん
中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。
X(旧twitter):@hoshino2009