

「ぼくを殺してください」。突然の告白から少女の運命は動き出す
「ぼくを殺してください」
「理由は話せない」が「必ず自殺に見せかけ、綺惟香の人生に迷惑はかけない」と熱く語る千景。困惑しながらも、明確に断れなかった綺惟香。千景は翌日以降も、ストーカーのように綺惟香に付きまとう。綺惟香を守ろうとする綺惟香の友人・雨音(あまね)に追い払われても、決して諦めようとしなかった。
二人の関係に変化が訪れたのは、雨音が体調を崩し、学校を休んだある日のこと。
これ幸いと綺惟香に近づき、自分を殺してくれと説得しようとする千景から、綺惟香は思わず逃走。駅を出て、綺惟香が千景の方を振り返ったそのとき、綺惟香に向かって居眠り運転のトラックが突っ込んできた――。
綺惟香が轢かれる直前、全力で突進してきて綺惟香をトラックから救い出す千景。その刹那、綺惟香の脳裏には、遠い異国を思わせる謎の映像がフラッシュバックしていた。
気絶して病院に収容された綺惟香を前に、千景は「自分がきいちゃんを危険な目に合わせてしまった」と落涙。意識を取り戻して戸惑う綺惟香を抱き寄せ、なぜかずっとこだわっていた「ぼくを殺してください」という言葉を撤回する。
「きいちゃんが天寿を全うするそのときまで ぼくがあなたさまの生命をお護りする」
以降、千景の綺惟香に対する言動は、まるで「従者の姫に対するそれ」のように変化していた。綺惟香の前にもう一人現れた「俺を殺せ」という男・破土羊宗(はどようそう)の横暴からも、綺惟香を守ろうとする千景。二人がもみ合うなかで、破土が千景を問い詰める。



「あの女が白櫃(シスタ)なんだろ?」
悠久の時を超えて「死と転生」を繰り返し、その記憶を保持している「魂蹤者」である千景。
彼が呪われる前の「原初の生」「原初の死」で彼の魂を救ってくれた女性・シア様の生まれ変わり・綺惟香。
千景と同じく魂蹤者と思われる破土と、まだ正体は掴めないがやはり綺惟香に尋常ならざるこだわりを持っているように見える友人の雨音。
とてつもなく長い時間を超えて紡がれる、愛と憎しみ、恩讐と忠誠の物語が幕を開ける。
今後の展開が読めない「4500年の時を超えたラブストーリー」
千景は4500年ほど前、おそらく1度目の人生で、何らかの業を背負ったことで呪われてしまい、以降は数えきれないほどの「死と転生」を繰り返している魂蹤者だった。
魂蹤者はその願いをそそぎ切る唯一の存在・白櫃に殺されることで、初めて「魂蹤者を白櫃に承継」し、死を迎えることができるという。
前世の記憶がキーとなる「悠久の時を超えたラブストーリー」といえば、私の年代ならば古くは『ぼくの地球を守って』(日渡早紀)などが思い浮かぶ。同作は80年代後半~90年代前半に少女漫画誌『花とゆめ』にて連載された漫画で、壮大なラブストーリーに加えて異星人としての超能力を駆使したバトルなども展開された大作だった。
本作『死にたがりのエテルノ』でところどころ挟まれる「前世の記憶」と思われるシーンは、おそらくは地球上の異国、年代的には4500年前だが、イメージとしては中世あたりの欧州、騎士と王政の時代を想起させるものになっている。千景の前世が全身血まみれの姿で綺惟香の前世に抱擁されるシーンは、その直前の悲痛にくれた心情が映し出されたような暗い画面との対比もあり、1枚の絵画のように美しい。



しかし千景はトラック事故の後、永劫とも思えるほど長い時間、望み続けていた「白櫃によって与えられる本当の死」を望むのをやめた。自らが呪われる前11度目の人生にて自らの魂を救ってくれた女性・シア様の生まれ変わりである綺惟香の傍に控え、その人生を守り続けることを選んだ。
前世において、千景と綺惟香の間に何があったのか。
「魂の牢獄」に閉じ込められている魂蹤者、そのすべての「呪われし者たち」が望む「本当の死」を望むのを辞めるのだから、そのつながりの深さは想像を絶するものだろう。
「もう一人の魂蹤者」である破土も、二人の過去にどうやら絡んでいるようだ。さらにそこに、なにか裏の思惑がありそうな友人・雨音がどう絡んでくるのか。
行く末が読めない「永劫に死ねない者」たちを巡る壮大なドラマから、目が離せない。