パンケーキ人気はまだまだ衰えを知りませんが、朝食ブームも根強く続いているように思われます。マンガ界に限って見てみても、マキヒロチさんの『いつかティファニーで朝食を』は今年ドラマ化を果たしましたし、秀良子さんの『おしゃべりは、朝ごはんのあとで。』も、担当編集者さんとのやりとりを笑いながら楽しめる出色のエッセイでした。
同じ朝ごはんマンガでも、前者2作では実際に存在するお店が登場するのに対して、『あさめしまえ』はちょっとひと味違っています。まず主人公は朝ご飯を提供する食堂「アサメシマエ」を営む、27歳男子の元(げん)。彼は幼い頃に出て行った母の気を引くため万引きに手を染めようとしたところを「アサメシマエ」の一人娘・早夜子に見つかり、毎日そこで朝食を摂って6年間の学生時代を過ごします。
やがて調理師となった彼は「アサメシマエ」店主の訃報を知り、店を継いでさまざまな人のため温かい朝食を提供していく……というのが大体の筋書き。土鍋ごはんと卵黄のしょうゆ漬け、ピタパン、中華粥、フレンチトースト、フォー、ミネストローネなど、並べただけでヨダレが出てくるような和洋中エスニックなんでもござれな料理の数々はとてもていねいに描写されていて、レシピも付いているのですぐにでも真似したくなります。
最新5巻では元を置いて家を出た母の、失踪の切ない真相が明らかになります。また元が思いを寄せているシングルマザー・早夜子と元夫の出会いも描かれており、主要人物のドラマが一気に動いていて読み応え十分。付き合いたての頃、元夫と朝に食べたマフィンの甘い記憶を回想したと思えば、「昔の自分に言いたいけど、チョコマフィンだけじゃ子供は育たないかんな。」とバッサリ吐き捨てる早夜子のセリフは痛快そのものです。基本的に1話完結スタイルをとっていますが、どのエピソードでも基本的に家族の話が絡んでいて、家庭崩壊を経験した元の母の「生活は続くものね 毎日ね… でも続いてくものだから 『生活』で立て直せたんじゃないかって 今日は何度か思ったんです ごはんとかお礼を伝えるとか ほんのちいさなくりかえしで…」という言葉は、日々、家庭内でイライラしてしまったときに思い出したいひと言だと思いました。
私の現在の朝ご飯ライフはというと……保育園に向かうまでのタスクを思い通りにこなしてくれるわけもない子供のやる気を出させるのに毎日必死で、朝ご飯を工夫する境地になどとても至れず。基本はパンにジャム、ヨーグルトがあれば御の字という状況。自分の身支度をしている間に子供にミカンを渡してお茶を濁したり、寝坊して納豆ご飯オンリーなんてのも日常茶飯事というお恥ずかしい毎日です。自分が子供の頃は母が一汁三菜の朝ご飯を毎朝こしらえてくれて、「朝からこんなに食べられないよ」などとぶつくさ文句を言っていたものでしたが、今思えばなんて贅沢をぬかしていたのか。「母は専業主婦だったから私とは違うし、仕方ないんだ…」なんて言い訳を心の中ではしているしょーもないかーちゃんですが、やっぱり毎日自分を作ってきてくれた食事の記憶は、いい大人になった今でも鮮明に覚えているもの。明日こそはもう少しまともな朝食をこさえよう。ご飯にみそ汁にシャケ焼いて出汁巻き玉子まで作ってやる、と、「あさめしまえ」を片手に決意するのでした(ほんとかな)。
レビュアー
ライター・編集者。特技は過去にあった出来事の日付をいちいち覚えていること。好きな焼き鳥は砂肝。