絶望の淵で覚醒する反逆者
時代は第二次世界大戦中の米国。物語は、国立衛生研究所のグロスマンが、日系人の強制収容所を訪れるところから始まる。彼が求めたのは、ゲンジ・クロガネという日系人への面会。腹を裂こうが頭を撃ち抜こうが、直ちに再生する特殊な能力を持つゲンジは、日本軍工作員の疑いをかけられ、収容所で虐待を受けていた。グロスマンはそれを詫び、ゲンジの生きる支えとなっていた弟、晴彦との面会を許すのだが……。
グロスマンの狙いは、ゲンジに極限の苦しみを与えて真の力を出させること。人類とは異なる新たな種、「反逆者(レベリオン)」として覚醒させることだった。
鋼の体を持つレベリオンとして覚醒するゲンジ。しかし、その力を制御できず、すぐに力尽きてしまう。そこにグロスマンと異なる組織に属するレベリオンたちが現れ、ゲンジを救出。ゲンジは組織のリーダー、ノーラン・ジェンキンスから、世界の裏側で起きているレベリオン同士の抗争について聞く。
ゲンジは、グロスマンへの復讐を果たすために、ジェンキンスたちと共闘することを約束。そして新たなレベリオンを仲間にするため、ナチスドイツとソ連軍が対峙する激戦地スターリングラードへと向かう……。
本作の作画を担うのは、剣戟漫画の頂点のひとつ『ツワモノガタリ』の細川忠孝。「最強の剣客は誰か?」をテーマに、「異なる流派の剣の使い手が戦えばどうなるか?」を異種格闘技戦のように描いた『ツワモノガタリ』は、徹底した取材と考証から生まれるリアリティに溢れていた。そして原作は、大ヒット作『満州アヘンスクワッド』の門馬司。満洲国とアヘンという裏歴史を扱った高カロリーなクライム・サスペンスを連載しながら、第二次世界大戦の史実をフィクションで再構築する本作を手がけるとは……、それこそレベリオン並みの驚異の才能だ。
『ツワモノガタリ』や『満州アヘンスクワッド』と同様、『レベリオン』も史実をベースにした作品だ。しかし、その方向性は大きく違う。『ツワモノガタリ』や『満州アヘンスクワッド』は、まず史実があり、それをベースに漫画としてのフィクション(面白さ)を極大化しようとしている。一方で『レベリオン』は、まず異能者(フィクション)が存在し、それを史実の中に置く。つまりフィクションという風呂敷の敷き方、その大きさが対照的なのだ。それにより何が起こるか? レベリオンたちは、その突出した異能ゆえに史実自体を改変してしまいかねない。というか、改変しなければ面白くない。が、その匙加減を間違えると、失敗作になりかねない。細川忠孝と門場司という最高のタッグは、そういう綱渡りを『レベリオン』で行おうと企んでいる。
差別されるマイノリティの敵とは?
『レベリオン』での歴史改変は大胆だ。
ナチスドイツの真の支配者は、宣伝大臣のゲッべルス。彼は、己の話に10秒以上耳を傾けた者の話を扇動することができる、つまり人を意のままに操ることができるレベリオンなのだ。ゴク側に属す彼は、ソ連兵のレベリオンを味方に引き入れようと画策。そのソ連兵のレベリオンの能力とは、
ロシア兵の名前はヴォルコフ。モデルは映画『スターリングラード』でも描かれた、149人のドイツ兵を射殺したという伝説のスナイパー、ヴァシリ・ザイツェフだろう。彼は放たれた弾丸を自在に操る「命じられた弾丸」という能力を持っている。ゲンジらはゴクに先駆けてヴォルコフに接触するのだが、ゲッべルスの能力によりヴォルコフの意思は奪われてしまい、ゲンジたちは窮地に陥る……。
スターリングラードでは、両軍200万人以上の死傷者を出しながらナチスドイツ軍が負ける。その史実は、ゲッべルスとヴォルコフというレベリオンが存在するフィクション、世界線では通用しない。突出した力を持つレベリオンが史実を曲げ、私たちの知らない歴史を現出させるのか?
それとも史実との整合性を保ちながらレベリオンたちの抗争が展開されるのか? 歴史モノでありながら、先の展開が読めない。
この作品には、もうひとつの大きなテーマがある。
レベリオンは人類を凌駕する能力を持ちながら、マイノリティであるがゆえに差別される。被差別者である人類を排除レベリオンの世界を作ろうとするゴグと、「人類、すなわち敵」と見なすことが正しいのかと問うノーラン。これに対し、ゲンジはこう答える。
ゲンジはこれからも人類の仕打ちに叩きのめされ、闇堕ちの危機にさらされるだろう。極めて不安定な主人公が、いかなる運命を選択していくか……。
と、ここまで説明して、「X-MEN」シリーズを想起する人もいるだろう(特に、第二次世界大戦から冷戦にかけての時代を描いた『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』の影響は大きいと思われる)。しかし本作は、アメコミの偉大なるレジェンドに敬意をもって目配せしながら、漫画ならではの奇想、伝奇、残虐性をもってそれを凌駕しようとしている。これからゲンジたちがどんな史実を突き破り、どう歴史を書き換えていくのか、眼が離せない。
レビュアー
関西出身、映画・漫画・小説から投資・不動産・テック系まで、なんでも対応するライター兼、編集者。座右の銘は「終わらない仕事はない」。