すこぶる凶暴、ひたすら残虐、どこまでも傍若無人。なんとも痛快で楽しい一作だ。第1話から富士山が消し飛び、京都が瓦礫の山と化す大盤振る舞い。人間をムシャムシャ食い荒らす不気味なモンスターに立ち向かうのが、自らも敵の捕食者(プレデター)となった不死身のチンピラ系主人公という構図からして、アナーキーに冴えている。いわゆるジャンルの約束事や倫理観などが通用しない型破りな作風がいっそ清々しい“暴食ダークファンタジー”の誕生だ。
時は23世紀、人間を捕食する異形の怪物“ハーピィ”の出現により、人類は未曽有の危機に直面していた。そこでハーピィ処刑協会が世界各国に設立され、日本支部「鳴禽會」にも荒くれ者の処刑人(ディミオス)たちが集結した――。ギャンブルと風俗と食をこよなく愛する男・粗開尚吾もその一人。今日も今日とて仕事をサボり、京都の風俗店にシケこんでいた粗開だったが、そこにハーピィの大群が現れる。次々と市民が貪り喰われていくなか、大胆不敵に単身立ち向かっていく粗開。残酷に切り刻まれ、削ぎ落されていく彼の肉体には、ある“秘密”が隠されていた……。
常に関西弁で欲望まるだしのセリフをまくしたてるヤンチャな主人公・粗開のキャラクターが素晴らしい。恐るべき猛獣ハーピィを鳥肉(カシワ)呼ばわりし、躊躇なくその肉を食らうという人物造形も痛快だが、戦いぶりも前代未聞。首を切り飛ばされても死なない驚異的再生能力を持つうえに、身体損壊率が50%を超えるとTNT爆弾10キロトン相当の内部爆発を起こすという「必殺技」の無茶苦茶な設定は、御都合主義というよりも、バトルシーンで満身創痍になることが約束された壮絶なギミックというほうが正解だろう。この設定も今後どんなふうに変異していくのか予想もつかない。そこが面白い。
不本意ながら彼とバディを組むことになるのが、ハーピィ処刑人中位3級の美しき戦士・オリヴェイラ。こちらも超人的な戦闘能力と再生能力を兼ね備えた最強戦闘美女で、粗開に負けず劣らず捨て身の死闘ぶりを見せてくれる。SNSで話題を呼んだ同じ作者の読み切り短篇『完全処刑オリヴェイラ』に魅了された漫画ファンにとっては、嬉しい再会だろう(同一人物かどうかは定かではない)。本作では粗開のハチャメチャな行動に振り回され、怒り心頭でツッコミを入れたりしつつ、頼れるパートナーとして作品を引き締めている。
女性の顔と鳥の身体を持つギリシャ神話由来の怪物、ハーピィの描写もインパクト絶大。エレガントな美貌と凶悪無比な残忍さを振りまく最上位種=「有翼の貴婦人」たちのキャラクターも迫力たっぷりだ。そのケレン味あふれるビジュアルには「敵キャラこそ最大限に魅力的に描くべし」という作者の漫画哲学が息づいているかのようだ。この痺れるような禍々(まがまが)しさとカッコよさあふれるページ群を見よ。
女性の強さと恐ろしさ、抗いがたい妖艶な魅力を放つモンスターに、「女の敵」のようなドスケベ主人公が不遜な戦いを挑むという構図も、不謹慎で面白い。ハーピィの圧倒的力量と存在感にこそ、ゾクゾクする快感を覚える読者も多いのではないだろうか。
先述の短篇『完全処刑オリヴェイラ』でもひときわ目を引いた、力強く勢いに満ちたアクション描写の素晴らしさは、作者にとって初連載となった本作でも存分に発揮されている。荒々しく迫力に満ちた筆致には、自分のリミットなど考えずに壮大なビジョンを実現させようとする野心にも漲(みなぎ)っており、それが気持ちいい。
ここまで思いきりの良い、突き抜けたエンタテインメント作品にはなかなか出会えるものではない。車戸亮太の『雄!マスラオ学園』以来のインパクトだろうか。きっと、より高濃度で切れ味鋭いビジュアルアイデアが作者の脳内にとめどなく渦巻いていると思うので、今後の続刊も楽しみに待ちたい。
レビュアー
ライター、ときどき編集。1980年東京都生まれ。雑誌や書籍のほか、映画のパンフレット、映像ソフトのブックレットなどにも多数参加。電車とバスが好き。